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平成19年9月 第2287号(9月12日)

京都外国語大学の地域連携 −1−

京都外国語大学学長 堀川徹志

 京都外国語大学(堀川徹志学長)は、一九四七年に京都外国語学校として設立された。同大学が特に重視する「人間力」を高めるため、地域社会との関わりにおいては、各言語の文化圏に関する豊富なデータと交流実績をもつ外国語大学という特性を活かした連携を継続して行っている。しかしながら、同学の地域連携は、大学が所在する限られた地域との連携に留まらない。このたびは、同大学の堀川徹志学長に地域との連携についてご執筆を頂いた。

はじめに

 京都外国語大学の前身である京都外国語学校は終戦後間もない一九四七年五月に創立された。当時、何よりも希求されていたのは世界平和であり、その基盤としての国際理解の促進であった。本学は開学当初から、国際理解の実現のためには、外国語を修得し、世界各地域の文化・経済・社会に熟知した人材の育成が急務であると考え、"Pax Mundi per Linguas"(言語を通して世界の平和を)を建学の精神として掲げ、それを中心に据えた教育・研究活動を展開してきている。
 全入時代を迎えた今、大学は自己存在意義を再確認し、そのミッションを明確に学内外にアピールする必要性が高まっているが、本学は「国際社会に貢献し、次世代を担うことのできる『人間力』豊かなリーダーの養成」を教育活動の目標としている。本学が特に重視する「人間力」を高めるための三つのコンセプトは、「実践的外国語運用力」「コミュニケーション力」「多文化共生力」である。この三つのコンセプトは、最近指摘されることの多い「地域社会との関わり」において、本学が果たしていくべき役割や機能のコンセプトでもある。
 一般に大学は、図書館や体育施設などといった有形の資産を地域に開放し、地域の資産として活用できるようにすることは無論のこと、特色ある教育機能や優れた研究成果など、大学が有している様々な無形の資産を地域の発展に生かすことによって、地域における大学の存在価値を高めることができる。本学では、日本語を含めた八言語を専攻の学科で教授し、また第二、第三外国語として一六言語を教授している。そこで、各言語の文化圏に関する豊富なデータと交流実績をもつ外国語大学という特性を活かした地域連携を継続して行っているが、本学の地域連携は、大学が所在する限られた地域との連携に留まらない。そこで、本学の地域連携の取組みを「地元(日常生活圏)」「京都から世界へ」「地球」の三回に分けて報告する。第一回は、大学所在地との地域連携に関する近年の主な取組みについて概説する。第二回は、国際文化観光都市「京都」との連携事例として、「現代GPプログラム」に採択された「官学連携による観光振興―多言語で京都を発信する―」を紹介する。第三回は、学園創立六〇周年記念事業の一つとして学生のイニシアティブで展開している「Imagine Peace―貧困と平和―」を中心に、地球規模の活動取組みについて紹介する。そして最後に、本学が取組む地域連携における課題や問題点、将来的展望についてまとめたい。

 1、大学所在地における地域連携 ―地域と共に歩む大学を目指して―

 大学所在地との連携については、高齢者から児童まで幅広い年齢層を対象とした様々な取組みを行い、地域と共に歩む大学を目指している。特に、次代を担う若者の心身ともに健やかな成長を願って、近隣の小学生を対象とした様々な活動を行い、在学生を中心とした取組みが多いことが本学の特徴の一つである。小学生の国際感覚の涵養に大学在学中から主体的に取組むことで地域や社会と関わることは、本学で学ぶ学生自身の卒業後のキャリア形成にも大きな影響を与えている。
 (1)外国語大学ならではの生涯学習講座
 開講している言語数は一一に及び、それぞれ初歩から高いレベルまで学ぶことができるように配慮しており、二〇〇六年度の受講者数は五六二人であった。社会人が参加しやすいように、開催場所は地理的な利便性に配慮して、JR京都駅前のキャンパスプラザ京都(サテライト教室)、岡崎学舎(左京区岡崎)、本学キャンパス(右京区西院)の三か所に設け、開講時間帯は昼間だけでなく、夜間も開講している。また、語学だけでなく、「グローバルコミュニケーション」、「異文化理解」や、そのほか、社会人のキャリアアップや資格取得を目指す講座も開設している。
 (2)幅広い分野での公開講演会・研究会
 学科や研究所、部署が主体となって、年間を通して幅広い分野で数多くの公開講演会を開催している。公開講演会は大きく二つに分けられ、それぞれの機能を果たしている。一つは、外部から講師を招いて、各界における最先端の情報や一流の文化・芸術に触れることのできる機会である。これは地域住民だけでなく、本学学生や教職員にとっても貴重な機会となっている。もう一つは、本学の教育研究活動の成果を地域に発信する機会で、地域社会に本学を正しく理解してもらうと同時に、地域のニーズをダイレクトに把握するためのインタラクティブな機会になっている。講演会や研究会の開催情報は、ホームページで逐次案内をするほか、地元新聞やコミュニティ誌に掲載している。
 (3)高大連携
 二〇〇三年度に京都府・京都市の教育委員会と連携協定を結び、高校生が大学の講座を受講できるようにしている。高校生が受講できるのは「実践総合英語ワークショップ」などの三講座で、府立高校では生徒の単位として認定している。さらに両教育委員会の教員は、本学で英語教育に関する指導法などを受講することもできる。また、京都市内の私立高校や滋賀県内の県立高校三校とも同様の協定を結び、連携の輪を拡げている。
 (4)小学校における多文化理解教育
 高校との連携だけでなく、京都市の小学校においても国際理解に関する教育に取り組んでいる。例えば、一九九八年度から本学に隣接する小学校では「国際理解学習」や「子ども国際クラブ」といったプログラムを実施している。これは本学で日本語・日本文化を学ぶ留学生が講師となって、児童に自国の文化や歴史等を教えるという異文化理解プログラムである。また、近隣の小学生を対象とし、留学生と本学学生が共同して諸外国の様子を身近なテーマでわかりやすく教える「夏休み子ども異文化体験教室」(二〇〇六年度は一二一名が参加)を開講し、多文化理解に貢献している。
 このほか、体育教員の指導のもと、体育会系クラブに所属する学生が中心となって指導する「夏休み子どもスポーツ体験ウィーク」も毎年実施している。また、児童だけでなく親子で参加できるスポーツプログラムも実施している。
 (5)多文化共生への取組み
 近年、日本における外国人労働者が増加するなかで地域の国際化現象が進展し、各自治体は新たな問題への対応を迫られている。本学が所在する京都市では、日本語能力が不十分な外国人児童生徒等への対応を実施しているが、その一環として、本学は日本語指導や総合学習における異文化理解のための講座や交流会に学生を派遣している。また、ブラジルやペルーなど南米国籍の日系人を中心に、在住外国人が急増している滋賀県に関しては、外国人児童生徒の母語で対応できる学生を同県に派遣し、日本語を教える現場教師や非常勤講師の補助、あるいは外国人児童生徒の母語による学習支援や日本語の指導を行っている。参加学生は、「お互いの気持ちがわかるようになった」と、現場の教師や講師、児童生徒から感謝されることに充実感を感じており、多文化共生の成果を上げている。
 (6)課題と展望―地域との信頼関係の構築―
 以上、紹介した取組みの一つひとつは、予算的な規模は小さく、大掛かりなプロジェクトタイプのものではない。しかし、いずれも長い時間をかけて試行錯誤を重ねてきた取組みであり、本学の年間行事に組み込まれ、すでに地域にも根付いている。この継続性こそが地域との連携においては重要であり、大学との間の信頼関係の構築に繋がると考える。
 一方、年中行事化されることによって生じる問題点もある。例えば、地域の新しいニーズを掘り起こそうとしない、学内関係者の関心が薄れるといったことなどである。そこで、いわゆるマンネリ化を防ぐための工夫として、本学では現在のところ、あえて地域連携の窓口を一本化していない。キャンパスが広く、また多数の部署がある大規模大学の場合には窓口を一本化する必要があるかもしれない。
(つづく)

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