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平成19年9月 第2287号(9月12日)

恵泉女学園大学のコミュニティ・サービス・ラーニング −3−

恵泉女学園大学人間社会学部特任教授 山本悦子

W まとめにかえて

 コミュニティサービスラーニング(CSL)は、あくまでも学生が地域社会へ目を向け、一歩ふみ出すきっかけ作りである。一人でコツコツと地道な努力が求められる活動だけに、学生個々の興味関心がもてる活動選びが重要である。「SL方法論」を履修しても“自分が何をしたいのか”絞りこめずに、活動に取り組めない学生もいる。また活動先は決まっても、CSLTの活動を始める前に一日のオリエンテーション(事前学習)に参加して、“もうこれ以上出来ません”と活動を断念する学生もいる。群れて行動することに慣れている学生にとって、一人で活動を継続させるためにはかなりの決意が求められる。なぜ私はCSLのこの活動をするのか、自分なりの解答を絶えず突きつけられる。ある学生はアルバイトと比較して、同じように時間を費やし疲れる、なのにCSLは収入がないと自問しながら続ける中で、経済的価値とは違うものを得ていることに気づき自ら答えを見出した。
 コミュニティが崩壊していると言われる現代社会において、学生はコミュニティという言葉をほとんど実感することなく暮らしている。そのような学生にコミュニティの育成の必要性を説いても、現実感に乏しい。むしろ一歩ふみ出して体験する事を通して、今まで出会うことのなかった人々に出会い、多様な職業や生き方を知ることで、初めて社会がもつ多様性に気づき、多様な人々によって成り立っている社会を知る。それは新たな知識を得るというよりは、むしろ考え方に広がりを得ている。
 本学がある多摩市の社会福祉協議会が運営する「福祉ショップ」を活動場所としている学生達がいる。店員のお手伝いをすることで幅広い年齢層の市民とお話をする機会を得るが、特に高齢者との会話を楽しんでいる。高齢者にとって若い学生との会話の機会はめずらしいことであるだけでなく、もしかすると、その日ほかの誰とも会話をする機会がないかもしれない。高齢化が進む地域の高齢者の生活に目を向け、各高齢者がどんな思いで自分と話をしているのかを学生は考えさせられ始めている。CSLの活動に参加する学生は、人と人とのつながりがコミュニティにはいかに重要な意味をもっているかを実感し、新しい価値観がここにはあると気付いていく。
 CSLの体験の先にあるものは、新しい価値観であり、生き方の広がりである。自分のことばかりに目を奪われて生きている現代の私達に対してCSLは、一つの問いかけである。学生は活動中、皆で助け合っていくことはいい感じだなあと素朴に受け止め、社会貢献とは言えないかもしれないが、少しは他者の役に立っているかも知れないという気分を楽しんでいる。
 最近企業でワークライフバランスという言葉が使われるようになった。教育だけでなく企業の場でも新しい生き方や価値観を求めて動き出そうとしている人々がいる。活動前に考えていたこと、活動中考えたこと、そして活動後自分はどのような考え方で生きていくのかと、絶えず変化してきた過程をふりかえりつつ、自分と社会(あるいはコミュニティ)という視点で、自己の生き方や社会との関わり方を考える契機となることを期待したい。というよりは、その可能性がCSLにはあるのではないか。
 前出のV項で、学生の声を通してCSLの特色ある学びを既に紹介しているので、ここでは重複をさけるが、本学のCSLとFS両方のプログラムに参加し、関連付けたテーマで学ぼうとしている学生を最後に紹介したい。
 KさんはCSLTとUを小学生(障害児も含む)の地域の子ども会でリーダーとして活動した。CSLUの後半は夏休みのキャンプに参加し、子ども達の日頃見かけなかった側面にも触れ、子どもが今まで以上に身近な存在となった。とかく今どきの子どもはと問題視される面もあるが、川遊びや山登りの場面で見せる子どもの表情や心の動きに、表面的な見方では決めつけられない子どもの姿を発見し、参加して本当に良かったとふりかえりで感想を述べた。CSLUが終了して間もない八月末に、Kさんは長期のタイFSプログラムに参加するために出発した。FSではタイの子ども達とふれ合う機会を積極的に作り、“子どもとその生活環境”をテーマにFSの課題をまとめる予定で、そのためにCSLの活動体験は必ず役に立つとうれしそうに語った。来春タイからの帰国後、CSLVに取り組む予定でいる。Kさんは子どもというテーマで、日本とタイ・CSLとFSの体験学習プログラムを有機的に組み立てている。まさに体験学習にFSとCSLを組み込むことで、学生がローカルな問題とグローバルな問題の関連性と異質性を立体的に理解できるようにと意図した教育プログラムが、学生に活用され始めた。その点でも、今後の展開に期待したい。

X 今後の課題と展開にむけて

 二〇〇七年秋学期以降、本学のCSLは人間環境学科の専門性や特色を今以上に活かしたプログラムの展開へと模索を始める。従って今回の本学のCSLの報告は、取り組み始めて二年半の現状報告である。これからの新たな展開に向けて、今までの活動をこのような形でふりかえり、まとめる機会を得たことに感謝するとともに、以下の課題を提示しておきたい。
 課題:@活動参加の難しさ、A興味、関心を持続させ、発展させることの難しさ、B活動中の交通費他の経済的な負担、C活動参加者同士が活動体験を分かち合う機会の少なさ。
 Aについては、CSLに関心はあってもアルバイト、サークル活動、大学の各種体験学習プログラムや研修、就職活動などに多忙な学生にとって、活動の時間を作り続ける努力をどのように支えていくか。活動先に任せるだけでなく、教員サイドからも働きかけ、学生の活動の意図や問題意識を発展させていく必要性がある。
 Bは、多くの学生にとっての悩みの種となっている(FSと同様に学内のローンはあるものの、個別にはそれ程の金額ではないが継続によってそれなりの負担が必要となる)。今期、留学生から経済的な負担のかからない活動という希望が出たため、大学内の活動(キャンパス内のリサイクル活動・エコキャンパス)を検討しているが、同じような工夫が今後も求められる。
 Cは、活動に入ると学生と教員とは一対一の関わりになり、学生同士が体験を分かち合い共感し合う場が持ちにくい。学生相互に学びあう機会を作る必要がある。
 二年半という短い期間であるが、参加した学生は「大変だけどやって良かった」と自分の世界が広がり、人間関係が多様化し、なによりも自分自身の成長を実感し、自信を得ている。そして「もっと皆が参加するべきだ」とまわりの友人に勧めることで、CSLの輪が広がってきている。こうした成果はプログラムを立ち上げた私自身にとってもうれしいことである。活動当初、不安げな面持ちの学生に対して私も内心同じような思いを抱きつつ背中を押していたが、多くの学生が私の予想を超えて辛抱強く活動に取り組み、活動を重ねるにつれ表情や話し方に変化が見えてくるのは楽しみである。キャンパスの中だけで知識の教育をすることの限界を実感させられる。
 最後にCSLの活動のために本学の学生を受けいれてくださった活動先にこの場をお借りして御礼申し上げたい。(おわり)

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