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平成19年9月 第2287号(9月12日)

世界に通用する知的人材育成を 戦略的産学官連携の方策をまとめる

  文部科学省の科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会産学官連携推進委員会(主査:白井克彦早稲田大学総長)は、このたび、「イノベーションの創出に向けた産学官連携の戦略的な展開に向けて」をとりまとめた。同まとめは、今後の我が国の大学等における産学官連携活動の推進方策について検討を進めてきたもの。概要は次の通り。

今後の産学官連携についての基本的な考え方
 厳しい国際競争の中、独創的な研究結果からイノベーションを創出していくことを求められている我が国にとって、産学官の連携は、その実現のための重要な手段である。各大学等においては、教育・研究と新たな社会価値の創造についてバランスの取れた一体化を図り、それぞれが定める使命に即して、主体的かつ多様な取り組みを、戦略的に展開することが必要である。国は、必要に応じて各大学等を支援することで、国全体の産学官連携の質の向上を図ることを基本とすべきである。

産学官連携の現状と課題
 実績と成果:各大学等の知的財産体制整備が進展した結果、企業等との共同研究・受託研究が増加し、大学等からの特許出願数や実施件数が増加。その中で優れた成功事例も創出されている。
 課題:共同研究等の実施について、大規模なものは増加せず、また産学の間で意識に隔たりがある。特許出願件数に対し、知的財産活動の基盤整備が進んでいない大学も多数あり、知財人材が大学で充分に育成・確保されていないこともあり、特許の利用はそれほど進んでいない。また、地域の産業や中小企業との連携、大学と海外企業との共同・受託研究件数は極めて少なく、体制も不十分。大学発ベンチャーについては、事業化の人的基盤や社会的基盤が脆弱である。

イノベーションの創出に向けた産学官連携の戦略的な展開に向けて
 展開の方向:各大学等においては、中長期的な産学官連携戦略を、資金計画を含んだ形で作成することが必要であり、組織の効率的な運営を図るため、既存の組織や人員について、柔軟に形態を変えていくことが望ましい。
 共同研究等の実施に当たっては、研究課題の設定段階から対話を行うことが必要。産学で共同研究等の計画を策定し、目標の共有、役割分担を行い、基礎から応用までを見通した長期的な視点に立つことが必要である。また、国際的な産学官連携活動では、@国際的に通用する知財人材の育成・確保、A国際法務機能の強化と紛争予防、B国際産学連携・情報発信機能の強化、C海外特許の戦略的な取得と出願支援の強化、D地域の大学等を支援する産学官連携のための場の形成が重要である。
 大学発ベンチャーについては、学生・教職員に対する起業への理解・意識の向上、相談・支援要員の配置、インキュベーション施設の確保を含む各種支援機能の充実が不可欠である。さらに、大学等にベンチャービジネスに精通した人材を配置し、支援機関等との連携体制の構築、シーズの評価、経営、資金等の事業化支援機能の強化を行う。
 また、大学等においては、@国公私立の大学等間の連携やコンソーシアムの形成、ATLO機能の内部化や外部のTLOとの連携強化、BJST等外部組織の活用を行い、多様な産学官連携体制を構築することが重要である。
 大学等での知財人材の育成については、@知財専門職員の採用・研修・人事ローテーション、A知財専門職員に対する処遇(給与面)でのインセンティブの付与、B育成される若手知財専門職員への多様なキャリアパスの提示、C指導者による徹底したグループ学習による指導等、効果的なOJTの実施、D体系的な学内研修、外部研修(海外研修を含む)への積極的な参加、企業や法律事務所における実務研修など、実務能力を育成する効果的な人材育成、E他大学等の職員に対する研修の実施等、機関の枠を超えた人材育成、F大学の学部・大学院における知財教育と連携した人材育成、などが必要である。
 国としては、@国際的な産学官連携体制の強化、A特定分野の知財管理・活用体制の強化、B事業の支援体制の強化、など先進的な知的財産戦略を有する大学等の特色ある優れた取り組みを重点的支援する。また、地域における知的財産の管理・活用体制の強化、若手専門人材の育成・確保に取り組む大学等への支援、知的財産体制が脆弱な大学等への支援を行うことが重要である。
 これらの取り組みを進めるため、各大学等に共通する課題、留意点、方策等について調査、情報提供等を行うと共に、成功事例については広く周知する。

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