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平成19年6月 第2276号(6月13日)

武蔵工業大学における地域連携の取り組み −2−

武蔵工業大学環境情報学部 教授 岩村和夫

 武蔵工業大学(中村英夫学長)は、一九二九年、「公正」、「自由」、「自治」を建学の理念に、武蔵高等工科学校として創立された。一九九七年に横浜キャンパスに開設された環境情報学部では、開設時から地域連携の意識が強く、学生や地域住民、行政との継続的な連携活動が展開されてきた。こうした取り組みは、文部科学省「特色GPプログラム」にも採択されている。このたびは、同学部で地域連携に中心的な役割を果たす同学部岩村和夫教授に寄稿いただいた。

 前回触れたように、本学環境情報学部は一〇年前に横浜市都筑区に開設された文理融合型の新しい学部である。横浜市の六大事業の一つとして北部に計画的に開発された港北ニュータウンを母胎とする、これも新しい都筑区との地域連携を標榜し、開設当初から環境情報学という時代思潮を反映した分野の確立と持続可能な地域社会への貢献を目指してきた。
 大学キャンパスとして我が国で始めて認証を取得したISO14001の環境マネジメントシステムはその初期のマイルストーンである。その過程で、建築・都市系あるいは生態学系、社会学系、情報システム系等の研究室単位で、市や区の行政部署や地域の町内会、商店街、愛護会等との交流が生まれ、自然発生的な地域支援・連携の活動が生まれた。そして、その結果として毎年学部の卒業研究や大学院の修士研究のテーマに地域に根ざす課題が選ばれることも多くなり、その成果は地域にとっても大きな関心を生むに至った。
 たまたま私の研究室では一九九九年に横浜市が主催した「国際都市フォーラム」に参加し、その地域会議を本学キャンパスで開催した経緯もあり、以来横浜市や都筑区のまちづくりには審議会や委員会ベースでも深く関わる機会を得ている。そして、この一〇年来毎年定点観測的に実施してきた中川地区の調査を中心に、区長や行政職員の前で研究成果を発表する場を学年末に設けてきた。
 第一回は二〇〇一年のことである。その後、これは学部と区役所の共催行事となり、昨年度の平成十八年度で第四回目を数えている。横浜市では市長の方針もあって、市域における地域分権化が進みつつあり、区側の連携に対する関心も高まっている。毎回一〇本を超える調査研究の発表が午後一杯をかけて区役所内で行われるが、学生にとっては緊張感の伴う晴れの場であり、一方、行政や市民の側からは、実務や生活者の視点から普段見えにくい大学の活動内容に触れることのできる機会として大変好評である(アンケート結果参照)。
 我々大学側の展望は、こうした取り組みが単なる情報交換の場に終わることなく、定常的な交流をベースに具体的で実践的なまちづくりやタウンマネジメントに貢献できる入り口として発展することにある。その反映として、従前からの役割に加えて区内の民家園の市民ボランティアによる運営委員会や地下鉄駅に新設される市民施設の運営委員会に参加する機会などが増えている。以下に、平成十八年度に開催した第四回地域連携調査研究発表会と参加者に対して実施したアンケート結果の一部をお示ししたい。
 第四回(平成十八年度)地域連携調査研究発表会概要
 ▽主催:横浜市都筑区区政推進課、武蔵工業大学環境情報学部、▽日時:平成十九年二月二十二日(木)、▽場所:都筑区役所六階大会議室、▽対象:武蔵工業大学教職員・学生および、都筑区総合庁舎内各所属職員、研究テーマに関連する横浜市各局区職員、都筑区関係機関職員、地域住民等
 発表調査研究一覧
 1、修士論文(博士前期課程二年):
 @自然のポテンシャルを活かす学校教育空間の温熱環境調整に関する研究
 2、卒業研究(学部四年):
 Aつる性植物による外付け日除けの温熱環境改善効果の検討、B自治体の一般廃棄物処理のあり方に関する研究〜循環型社会に向けて〜、Cバタフライガーデンを活用した学生主体の実践型環境教育プログラムの開発と実践、D屋上緑化におけるハビタット機能に関する研究 〜ビオトープパッケージのモニタリングを通して〜、E和泉川における水質の回復状況に伴う珪藻群集の変化、F都筑区における街路樹が抱える諸問題 〜街路樹の管理と役割の情報公開に向けて〜、G横浜市市街地環境設計制度によって設けられた公開空地の利用機能に関する研究、H武蔵工業大学横浜キャンパスにおける自動車利用に関するアンケートから自動車依存社会について考える、I港北ニュータウンにおける子どもの生活環境〜写真投影法による日常生活環境の分析〜、J港北ニュータウンおける町内会活動に関する研究、K高齢者向けPC教室を通した学習環境のデザイン、L中川地区まち圏調査結果
 第四回地域連携調査研究アンケート結果(抜粋)
 □ 回答者の属性


 □ 評価の高かった研究発表トップ5
 ▽一位I港北ニュータウンにおける子どもの生活環境〜写真投影法による日常生活環境の分析〜、▽二位@自然のポテンシャルを活かす学校教育空間の温熱環境調整に関する研究、▽三位F都筑区における街路樹が抱える諸問題〜街路樹の管理と役割の情報公開に向けて〜、▽三位J港北ニュータウンにおける町内会活動に関する研究、▽五位Aつる性植物による外付け日除けの温熱環境改善効果の検討
 □ 意見や感想
 ・今回のような試みを今後も継続してほしい。
 ・都筑区を取り巻く様々なことを様々な視点から見られる良い時間を過ごせた。
 ・学生が時間と手間をかけて研究している姿勢に感嘆した。一つの事柄を突き詰めて考察、発表することは貴重な経験になると思うのでこれからも続けて欲しい。
 ・研究の成果を発表できる機会がありとてもすばらしい。研究をしたというだけで終わりにするのではなく、その成果を生かしていかれるよう多くの人に知って欲しいと思う。そして実際の生活の中で生かしていって欲しい。
 ・学生の段階で、行政職員や市民に対して発表することはとても勉強になると思うので頑張って欲しい。参加して有意義だった。
 ・学生ならではの視点でのいろいろな発表が聞けてとても参考になった。
 ・大変役立った。今後も研究成果を行政施策に取り入れて生きたいと思う。
 ・優れたプレゼンの発表が多く、行政の抱える課題解決に参考となるものが多く見受けられた。
 ・環境情報学科の研究成果を聞く機会があまりなかったので、貴重な機会で興味深かった。
 ・毎年地域連携の研究調査が続けられており、興味深い内容が多い。今後もテーマを続けて欲しいと思う。
 ・今後も行政運営に役立つ研究を続けて欲しい。
 ・大学と地域の結びつきが感じられ今後が楽しみ。
 ・学生の真剣な姿に大変好感を覚えた。社会に出てからも向上心を失わずに、地域社会に貢献されるよう望む。
 ・まじめな発表態度に好感が持てた。選挙統計業務などにご協力いただけたらと思う。  ・他県から参加したが、官学連携がすばらしい
 ・全体的に大変興味深い発表ばかりだった。今後とも連携しながらまちづくりを進めていければ良いと思う。
 ・区が大学と連携して、学生に研究してもらうのは大変良いと感じた。稲城市でもやればよいと思う。
 ・写真投影法がとても興味深いものだった。様々な年代、立場などのプラス、マイナス意識を分析することで、まちづくり計画や改善ができる。学校の取組(総合的な学習の時間や問題解決的な学習)にも生かしていけると良いと思う。とても有効な視点であると思うのでぜひ継続を。子どもの自己有用感や肯定感を育てることにも繋がる。
 ・発表を一〇件程度に絞って、発表・質問のいずれの時間も(発表時間の延長が必要なければ質問時間だけでも)延長したほうが理解が深まるのではないか。
 ・あと一歩、踏み込んだ研究があると良い。既知のものが多い。
(つづく)

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