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平成19年6月 第2275号(6月6日)

武蔵工業大学における地域連携の取り組み −1−

武蔵工業大学環境情報学部 教授 岩村和夫

 武蔵工業大学(中村英夫学長)は、一九二九年、「公正」、「自由」、「自治」を建学の理念に、武蔵高等工科学校として創立された。一九九七年に横浜キャンパスに開設された環境情報学部では、開設時から地域連携の意識が強く、学生や地域住民、行政との継続的な連携活動が展開されてきた。こうした取り組みは、文部科学省「特色GPプログラム」にも採択されている。このたびは、同学部で地域連携に中心的な役割を果たす同学部岩村和夫教授に寄稿いただいた。

 はじめに
 大学の特色は、その得意とする学問分野とそれを支える教職員、そして学生の質と意欲で持続的に形成されるべきものである。と同時に、大学が立地する地域との連携によって、その具体的な地域社会との創発的な関係が作られることによって、その特色がさらに強化されることになる。こうして地域に無くてはならない大学の存在理由を確立することは、大学、地域の双方にとって有形無形の大きな知的、文化的、物質的資産となる。
 また、今日では急速な進歩を遂げるITC技術を駆使して、狭い地域の地縁的関係や行政区域、さらに国境等の空間的領域を超えた地域連携も十分に可能だし、いくつもの先進事例がある。行政はもとより、産業界や一般社会との極めて複合的な外部関係を持つに至った大学はその役割が日夜変化しており、超少子高齢化社会に突入し競争的関係に晒される各大学はあらたな取り組みの開発に心血を注いでいる。
 本学では、一〇年前に総合的な学問分野の構築を図り、以来、東京都世田谷区の工学部と神奈川県横浜市都筑区の環境情報学部の二学部体制を敷いてきた。その規模や歴史、立地条件、分野の違いから、それぞれ地域と連携した取り組みには違いがある。また、一口に「地域」といってもそのエリアの設定は様々な規模があり、それに応じて活動の規模や予算、目的等も多様である。そこで、まずその全容を関連事項も含めて以下に示すとともに、三回に分けて代表的な事例について私の所属する環境情報学部からご報告したい。
 1、本学における現行の地域連携プログラムの概要
 本学における地域連携に関するプログラムは、全学レベルのものと学部、学科レベルの取り組みに分けることができる。また研究室レベルでも研究内容に応じた個別の取り組みもあり、その全体像が把握できているわけではない。別表はそれぞれのレベルで掌握できている最近の活動の一覧であるが、その対象は子供から大人、専門家、高齢者まで広範である。一〇年前に開設した環境情報学部では、開設時から地域連携の意識が強く、地元の自治体に立地する唯一の大学であることも幸いして、学生や地域住民、行政との継続的な連携活動が展開されてきた。また、国際的な地域連携プログラムも活発であり、それらを総合して文部科学省の「特色GP」プログラムに二〇〇六〜二〇〇八年度の三年間採択されたことは、本学部にとってもその特色を強化する上で大きな力となった。
 2、地域連携プログラムが抱える問題点
 しかしながら、教育・研究・学務・社会貢献等、膨大な業務に忙殺される大学にあって、以上のような地域連携には課題も多い。私たちがこのおよそ一〇年間に直面した問題点を整理すると、以下の通りである。
 (1)優れたプログラムでも、地域における貢献や露出が限定的、散発的であり、また学内での周知さえ不十分である→《広報の問題》
 (2)単位取得との連動が不十分で、学生の参加インセンティブに欠ける→《単位との連動》
 (3)生涯(リカレント)学習活動の対象が高齢者だけではなく、ステークホルダーが拡大・多様化している→《ステークホルダーの多様化》
 (4)その結果、本学が関与する活動の全容把握が不十分で、定常的な情報収集体制の整備(全学レベル・学部レベル)が求められる→《情報収集体制の確立》
 (5)主催者、運営規定等が多様なため、大学としての責任の所在が明確ではない→《責任の所在》
 (6)経済的な状況がそれぞれのプログラムごとに異なり、中長期的な計画は個別にしか立てられない→《不十分な経済的支援》
 3、今後の戦略案
 以上の問題に対処し、地域連携を大学の中核的な活動の一つとして発展させるためには、以下のような戦略と対策が考えられ、本学でも今後全学教務委員会等での検討を経て具体化への一歩を踏み出す予定である。
 (1)大学の役割の変質や学部の再編成と連動して、窓口の名称も含めた戦略的な展開が不可欠である。
 (2)廃止された生涯学習センターの機能を強化した形で、全学的にリカレント教育や地域連携活動を把握し、企画・支援できる機構を設置する。その業務・機能は以下が想定される。
 @情報収集および全学データベースの構築
 Aプログラムコンテンツ作成の支援、人材の派遣
 B広報との戦略的共同
    ↓
 (3)「(仮称)地域連携開発センター」の設立へ
 以上の取り組みとともに、大学教育・研究の活性化、人材・コンテンツ資源の活用、外部資金の導入、入口出口の拡大・充実、地域的・社会的存在感(知名度)の強化などを目的として、以下に関するプログラム(オン・キャンパス+オフ・キャンパス)の体系化および戦略的展開の全学的拠点としてそのセンターを設立し、個々の活動を支援・強化することなどが考えられる。
 @リカレント教育を中心とした地域貢献:社会人教育、市民講座、生涯学習等
 A小中高等教育への貢献:科学体験教室、まちづくり教室、模擬講義等
 B学生のキャリア・デザイン:企業インターンシップ、OJT、商工会議所との連携等
 C産業界における能力開発、継続教育(CPD)等への貢献
 Dキャンパスの立地する地域社会への貢献:産・官・民・学の共同による地域連携等
 E遠隔地への貢献:eラーニングの活用、派遣・出前講義等
 F国際交流、国際貢献:国内外研修・実習、eラーニング等
 おわりに
 上記の案は、まだ検討の端緒についたばかりである。今後、大学全体としてのパワーを高めていくために、管理志向ではない発展的な基盤づくりを目指したい。次回から二つの地域連携の事例を検証し、本学の取り組みの一端を具体的にご紹介したい。(つづく)

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