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平成19年5月 第2274号(5月23日)

ガス排出の安定化を 4次報告書第3作業部会

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、このたび、第四次評価報告書第三作業部会の報告書(気候変動の緩和策)をとりまとめた。それによると、温室効果ガスの排出量は、一九七〇年から二〇〇四年の間に約七〇%増加しているが、適切な取組みがなされれば安定化は可能である。
 IPCCとは、人為起源による気候変化、影響、適応および緩和方策に関し、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことを目的として、一九八八年に世界気象機関と国連環境計画により設立された組織である。このたびの「第三作業部会」は、温室効果ガスの排出削減など気候変化の緩和についての評価を行う。これまで三回にわたり発表した評価報告書は世界の専門家や政府の査読を受けて作成されたもので、地球温暖化に対する国際的な取り組みに科学的根拠を与えるものとして極めて重要な役割を果たしてきた。
 同報告書によると、温室効果ガスの排出量は、産業革命以降増えており、一九七〇年から二〇〇四年の間に約七〇%増加した。現状のままで行くと、世界の温室効果ガス排出量は、次の数十年も引き続き増加する。
 二〇三〇年を見通した削減可能量は、予測される世界の排出量の伸び率を相殺し、さらに現在の排出量以下に出来る可能性がある。二〇三〇年における削減可能量は、積み上げ型の研究によると、炭素価格が二酸化炭素換算で一トンあたり二〇米ドルの場合は、年九〇〜一七〇億トン(二酸化炭素換算)であり、炭素価格が同様に一〇〇米ドルの場合は、年一六〇〜三一〇億トン(同換算)である。温室効果ガス削減の取り組みの結果として大気汚染が緩和されることによる短期的な健康上の利益は、緩和コストを相当程度相殺すると考えられる。途上国へのエネルギー供給新規投資、先進国のエネルギーインフラ改修、エネルギー安全保障関連政策によって、温室効果ガス排出削減の機会がある。将来のエネルギーインフラへの投資に対する意思決定は、温室効果ガスの排出量に長期的な影響を及ぼす。また、エネルギー需要を満たすために、エネルギーの供給を増加させるよりも、利用効率の向上に投資する方が、費用対効果が大きい。再生可能エネルギーによる電力は、炭素価格が二酸化炭素換算で一トンあたり五〇米ドルの場合は、二〇三〇年の合計電力量の三〇〜三五%のシェアを占める可能性がある。
 運輸においては、自動車の燃費向上は、小型自動車では対策を講じたほうがコスト面で有利になり利益を生むこともある。しかし、消費者の自動車購入の判断基準は、燃料だけではないため、必ずしも大幅な排出量削減に結びつかない。
 建築においては、新規及び既存のビルにおける省エネ対策は、コストの削減あるいは経済便益を生み、大幅に温室効果ガス排出量を削減できる可能性があり、コストをかけずに二〇三〇年までに予測される温室効果ガス排出量の約三〇%を削減可能と試算される。
 産業においては、削減ポテンシャルはエネルギー集約型産業に集中している。先進国、途上国ともに、利用可能な緩和オプションが充分利用されていない。
 農業においては、低コストで全体として大きな貢献が可能。土壌内炭素吸収量の増加や、バイオエネルギーとして温室効果ガスの排出削減に貢献できる可能性がある。緩和ポテンシャルの大部分を占めるのは土壌炭素吸収の管理による。
 林業においては、低コストで、排出量の削減及び吸収源の増加の両方に大きく貢献することが可能。炭素価格が、二酸化炭素換算で一トン当たり一〇〇米ドルの場合、緩和ポテンシャルの約六五%が熱帯にあり、また約五〇%が森林減少の削減と劣化の防止により達成可能。
 廃棄物においては、全体の温室効果ガス排出量に占める割合は小さいものの低コストでの温室効果ガスの排出削減が可能であり、持続可能な開発も促進する。
 長期的には、大気中の温室効果ガス濃度を安定化させるためには、排出量は、どこかでピークを迎え、その後減少していかなければならない。安定化レベルが低いほど、このピークとその後の減少を早期に実現しなければならず、今後二〇〜三〇年間の緩和努力によって、回避することの出来る長期的な地球の平均気温の上昇と、それに対応する気候変動の影響の大きさがほぼ決定される。
 政策、措置、手法としては、温室効果ガスの排出緩和を促すインセンティブを策定するため、各国政府が取りうる国内政策及び手法は多種多様であるが、いずれの手法にも利点と欠点が存在する。実際の或いは隠れた炭素価格を設定する政策は、生産者及び消費者における、温室効果ガスの排出が低い製品に対する投資への顕著なインセンティブとなる。こうした政策は、経済的措置、政府の財政支援、規制的措置等を含む。
 開発の道筋をより持続可能な開発に向けるならば、気候変動緩和にも大きく貢献する可能性がある。

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