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平成19年4月 第2270号(4月18日)

地域で学ぶ国際文化 プール学院大学のサービス・ラーニング −1−

プール学院大学国際文化学部 教授 中島智子

 プール学院大学(井上修一学長)の国際文化学部国際文化学科は、サービス・ラーニングという科目を置いて、単位認定している。サービス・ラーニングは、サービス(貢献)とラーニング(学習)をつなげ、ボランティア活動を学外で行い、その体験を通して学びを獲得することを目指す教育である。大学の地域貢献活動と、教育をどのようにリンクさせるかについて、同学科の中島智子教授に執筆してもらった。三回連載。

 《はじめに》
 プール学院大学国際文化学部国際文化学科では、サービス・ラーニングという科目を置いて、単位認定している。そのサービス活動は、主として大学周辺の地域における教育や福祉に関わる支援活動である。
 サービス・ラーニングとは、文字どおりサービス(社会貢献活動)とラーニング(学習)をつなげ、その活動体験を通して学びを獲得する教育方法の名称である。サービス・ラーニングの詳しい説明や教育的意義などについては、すでに国際基督教大学の村上むつ子先生による丁寧な解説が本紙に掲載されたので省略し、ここではその実践編というべきか、大学の中でこのような科目の導入をどのように行い、そこから得られたものが何であるのかなどを記述しようと思う。
 近年、日本でもサービス・ラーニングを教育方法として、あるいはプログラムとして大学に導入する例が見られるようになってきた。学生の大学外での活動を奨励し、場合によって単位認定することは、多くの大学が行ってきている。しかしながら、その導入や実施過程においては、各大学でそれぞれに苦労しているのが現状であろう。本学もそうである。小さな私立大学である本学の試みの紹介が、何かの参考になれば幸いである。
《導入の背景》
 本学は、大阪府堺市の泉北ニュータウン内にあり、一九九六年に短大の一部を改組して開設した単学部男女共学の大学である。プール学院の沿革は古く、英国国教会の宣教師によって創られた一二八年の歴史を有している。
 サービス・ラーニングを科目として設置したのは、二〇〇四年度から始まるカリキュラムにおいてであり、実践科目としてフィールドワーク、オフキャンパス講座、インターンシップとともにサービス・ラーニングが置かれた。全ての学生に開かれているが、一部の専攻の学生には、実践科目四単位が必修となっている。
 サービス・ラーニングが導入された背景には、本学の教育理念がある。「愛による人の交わりと人類への奉仕」というキリスト教精神をもとに、本学部は「民族や国家の違いにとどまらず世代や性、地域、宗教、教育、職業等によって異なる背景を持つ人びとが、互いに協力し共存する途を探ること」を目的に設置され、「異文化間協働」を教育理念に掲げている。
 この教育理念を実現するために、体験知を生かした学びの習得に力を入れてきた。そのため、フィールドワークを単位化して国内外での活動を通して学ぶことを奨励し、また、短期留学や海外研修の制度を設け、学生が様々な国で海外学習を行うよう積極的に推進してきた。特に海外研修は、単なる語学学習にとどまらず、現地の教育機関や福祉施設の訪問交流や、小学校などで日本語・日本文化を教えたり、低所得者用住宅建設活動を手伝うなどの奉仕体験型のプログラムを取り入れてきた。
 二〇〇四年度にはこれらの積み重ねを整理して、従来の海外研修をオフキャンパス講座とし、フィールドワークとして単位認定される活動の中に、調査を目的とするものと活動を目的とするものが混在している状況を解消するために、後者のものをサービス・ラーニングとして整理し、発展させることにした。
 実はサービス・ラーニングは、本学大学院国際文化学研究科においてすでに実施されていた。二〇〇〇年度に開設した大学院では、やはり異文化間協働を教育理念としたので、フィールドワーク八単位を必修とし、そのうちの二単位はサービス・ラーニングを義務づけた。従って、例えば文学分野の研究テーマを持つ学生であっても、短期留学先の大学で紹介された活動や、地域の教育や福祉に関わる活動を行った。現在でも、サービス・ラーニング二単位が必修であることは堅持されている。
 《体制をどのように立ち上げたか》
 それでは次に、どのようにしてサービス・ラーニングを科目として立ち上げ整えたのかについて述べよう。
 二〇〇四年度からカリキュラム化したとはいえ、実際には二〇〇四年度は準備に費やし、二〇〇五年度から本格的実施となった。まず、学外研修中の教員の復帰を待って、二〇〇四年度の後期に四名(専門分野は教育学・教育人類学・社会福祉学・日本語教育)の教員でミーティングを開始し、サービス・ラーニングについての学習を進めながら、目的と方法、活動内容や活動先について詰めていった。
 この四名の教員の人選は、プログラム開発の検討を任された教員の呼びかけによる。全員が女性である。一人を除いては、サービス・ラーニングとは何かもよくわかっていなかった。しかし、結果的には、ある程度バランスの取れた構成になったと思われる。
 本学の海外研修を担当するセンター長である教員は、アメリカ合衆国におけるサービス・ラーニングの研究に通じていた。国内外での日本語教育研修の経験のある教員は、日本語教育支援を推進する上で中心となった。福祉分野の教員は、元来学生の実習に精通し、地域社会に活動先を求める上でもその経験が活かされた。教育学を担当する教員は、地域の学校における学生の支援活動を組織しようと考えていたこともあり、教育委員会や学校とのパイプを持っていた。
 四人はまず、サービス・ラーニングとは「意義ある社会貢献活動を通して学ぶこと」と位置づけ、活動そのものではなく学びを重視して、「ふりかえり」に力点を置くことを確認した。また、二単位に相当する内容として、四〇時間の実習と五〇時間相当の学習(活動の準備、ジャーナルを書く、「ふりかえり」時間への出席、レポート作成、報告会での発表)を求めた。
 これらの内容や準備過程については、逐次学科会で報告して全教員に周知するようにした。また、活動先と学生、教員間の連絡調整や教員の補助のために、担当コーディネーターを配置、サービス・ラーニングを研究テーマとする大学院生がその任にあたった。ちょうどその頃、学生のさまざまな学習課題に対応し支援するために、学習支援室の開設準備が進められており、そこに学習支援コーディネーターとともにサービス・ラーニング・コーディネーターを配置できた。学習支援室設置準備に関わる教員と、サービス・ラーニング担当教員に重なりがあったことが幸いした。(つづく)

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