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平成19年4月 第2268号(4月4日)

原子力人材の育成急務 日本原子力産業協会が報告書

  (社)日本原子力産業協会(今井 敬会長)は、このたび、経済産業省の委託により、「原子力人材育成の在り方研究会(座長:服部拓也・原産協会副会長)」の調査報告書を取りまとめた。概要は次の通り。

  ●背景
  発展途上国を中心にエネルギー需要が急増しており、今後世界全体のエネルギー総消費量は大幅に拡大すると見込まれている。自国内で確保できるエネルギーが極めて少ない我が国において、安定的に供給していくためには、エネルギー供給源の多角化を進めるとともに、準国産エネルギーとして原子力発電が重要になっている。
  原子力の開発利用を着実に進めるためには、若い優秀な人材が継続的に確保される必要がある。しかし、我が国では、目に見えない放射線に対する不安や、原子力施設の事故、故障等が続いていることに対する不安・不信は依然として解消されておらず、原子力が教育課程に含まれる学生数は、昭和五十年代前半よりほぼ横ばいであるものの、原子力の体系的な専門教育が行いにくくなり、実験・実習用の施設の老朽化という課題も出てきた。
  ●提案
  これらを背景として、大学・日本原子力学会からは、原子力人材育成の提案を行っている。最も重要なことは、原子力分野に優秀な学生が多数集まってくるための仕組みづくりである。原子力の場合には他の専攻にも増して、実習を欠かすことができず、そのために必要な学生や教員の旅費等の経費予算の確保が必要となっている。
  なお、実習のための技術スタッフや、実習生を受け入れるための事務スタッフの強化も検討すべきである。また、学生からは原子力産業界の実態が見えにくい状況であることから、良く知ってもらうためのインターンシップあるいは施設見学会等も重要であり、これらに必要な経費も支援が必要である。
  そして、体系的な原子力専門教育を復活させるため、体系的カリキュラムの再構築が必要である。原子力の未来への展望が開くことができるようなコアカリキュラムの設定と、これに対応した教科書、教材が必要である。また、自大学にない講義を他大学で、または、遠隔地講義システムにより受講し、それを自大学で単位化するという「横断型原子力工学コース」を構築することも有用である。そして、原子力シニアを含む多彩な外部講師による支援等も有効である。
  ●原子力人材育成
  同報告書では、平成十九年度の原子力人材育成プログラムの実施のあり方について整理した。その内容は次の通り。
  A教育活動支援(大学・大学院等の原子力教育推進のための教育活動支援)
  一、原子力基礎教育研究の充実―@学生の質の向上及び基礎教育の重視、A実習・実験の重視、B大学の特色を活かしたカリキュラム、教材及び講義内容の充実、C学生の学会事業などへの参加支援
  二、インターンシップの充実―@海外インターンシップへの支援、A国内インターンシップ支援(産業界のインフラ活用による実習支援)
  三、進路選択前及び原子力専攻以外の学生への支援
  四、原子力のコアカリキュラムの整備(標準的なカリキュラム及び教材の調査・開発)
  B研究活動支援(原子力を支える基盤技術分野の研究活動支援)
  基盤技術分野(構造強度、材料強度、腐食・物性、溶接、熱・物体・振動等)における若手技術者の研究活動支援
  ●プログラムの推進
  原子力人材育成プログラムを具体的に推進していくためには、産官学の協力が重要である。特に学生に対する教育では、大学・大学院等が主体となりカリキュラムや教材の作成が行われるとともに、基礎教育や応用教育(研究、論文作成など)、更には実習・実験が行われる。プログラムの実施に当たっては、大学・大学院等からの主体的な事業の提案が必要となる。
  産業界からは、カリキュラムや教材の作成、実習・実験に対して原子力産業界が有するインフラの活用、インターンシップや講師派遣に関しても協力する。
  社会人教育では、各企業において社員に対して実施される研修(OFF―JT)や業務を通じた教育(OJT)、実務に特化した専門知識の習得などがある。また、それ以外の就職後の教育活動としては大学院等において実施される各種の社会人教育への参加などがある。
  今後は、原子力人材育成関係者協議会(仮称)を設置して更に検討していく。

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