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平成19年3月 第2266号(3月14日)

"地域共創"の研究協議会開催 127大学からの約150名が熱心に協議
  地域活性化めざし地域との連携を

 日本私立大学協会の企画財務委員会(担当理事=廣川利男東京電機大学学園長)は去る三月二日、東京・湯島の東京ガーデンパレスを会場に「平成十八年度“地域共創”に関する研究協議会」を開催した。同研究協議会は前年度に引き続いて開かれたもので、大学と地域の連携による活性化方策と政府の施策動向や産業界からみた大学との協働体制方策などを協議するとともに、大学での取組事例なども紹介し、教育・研究と並んで、近年、大学の使命として大きくクローズアップされつつある“地域共創”の構築に向けた第一歩を踏み出す後押しをするものである。解説者として、文部科学省、内閣官房、日本商工会議所の関係担当官のほか、事例発表では、沖縄大学、金沢工業大学の具体的な取組が紹介された。

 開会に当たり、同協会の小出秀文事務局長は、私学を取り巻く環境の厳しさ、山積する課題について語るとともに、全国各地にある加盟大学がそれぞれの地域から支持されなければならないことなどを強調し、併せて、当日は解説者ではないが文科省私学部を代表して芦立 訓私学助成課長が参加していることを報告した。
 次に、廣川担当理事は「各大学とも入試の多忙な時期にもかかわらず多くの方にご出席いただいた。それほど“地域共創”のテーマが大きな関心事であるとの思いを新たにしている。また、昨年末に改正された教育基本法の第十三条には、『学校、家庭、地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする』などと明記されており、今後は地域とともに地域の活性化に積極的に取り組んでいただきたい」と挨拶した。
 その後、促されて登壇した芦立課長は、「地域に頼られる大学にするには、“我が大学はこんなことを考えています”といった情報発信をすることも大事であり、地域の商工会議所等の機関も大学等との連携を積極的に推進しようとしている。これらの施策に対し、私学助成の観点からも支援していきたい」と力強いエールを送った。
 協議事項に入り、次のテーマに沿って三氏が解説。
 (1)「大学の地域貢献と支援プログラム」と題して、文部科学省高等教育局の中岡 司大学振興課長は、大学の大衆化・全入時代という厳しい経営環境の中で、大学は知識基盤社会を支える大本である新しい「知識」を生み出す使命を担っている。そして、それらの知識に基づいた研究内容等で社会に貢献していかなければならない、などと述べた上で、大学と地域の関係(地方を支える人材の供給源として地域との結びつきを強める)、大学が地域にもたらす影響(企業への技術移転、教職員と学生の地域労働市場への流入、地域住民の技能と教育水準の向上、特定の訓練プログラムや共同研究によるグローバル企業の地域への取り込み等)についても解説した。
 そのほか、現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)の応募テーマの一つとなっている「地域活性化への貢献」を紹介し、応募を呼びかけた。
 (2)「大学と地域の連携による地域活性化」と題して、内閣官房地域再生推進室の大前孝太郎企画官は、大学等との連携には、科学技術政策、高等教育行政、地域再生という観点の異なる政策がいくつかあり、それらのクロスポイントに注目する必要があるとして、@地域の知の拠点再生、A地域のつながり再生の二つを挙げた。@については、閣議決定されている地域再生基本方針(地域の大学等は、地域産業活性化、地域医療・福祉、環境・エネルギー、防災など多岐にわたる地域ニーズに即した研究・教育を行い、その成果を地域に還元するとともに地域に根ざした人材養成を行うことなど)の解説、Aについては、地域再生総合プログラム(地域再生を支える力は“人”であり、そのつながりであること。大学は町内会、民間企業、NPOなどと架け橋をつくっていくことや、地域金融機関や行政機関などとも連携して多様な人々が参加・協働するネットワークを構築し地域力(ソーシャルキャピタル)を生み出す)についての解説をした。
 その上で、これらの連携に対しては政策として後押ししていきたいなどと述べた。
 (3)「産業界からみた大学との協働体制」と題して、日本商工会議所の小野 明新規プロジェクト担当付部長は、はじめに、同会議所が取り組む人材育成の三つの基本方針(雇用のミスマッチの解消、地方に立地する企業の人材確保、若年者の就業能力の向上と強化)を解説し、地方活性化に向けた具体例としての人材育成プロジェクトを紹介した。
 次に、人材確保支援事業として@無料職業紹介事業、Aジョブカフェ、B紹介予定派遣制度、Cインターンシップについて、また、同会議所との連携によるメリット(同会議所の会員企業との連携により、地元産業界の要請に直接応えるキャリアアップに寄与できることなど)を語り、今後は、大学からも同会議所に声をかけて欲しいと結んだ。
 次に事例発表に移り、沖縄大学と金沢工業大学から発表が行われた。
 (1)「「開かれた大学」から「共生実践する大学」へ」と題して、沖縄大学法学部の山門健一教授は、志願者が激減し、大学存亡の危機に直面した同大学は、「地域に根ざし、地域に学び、地域と共に生きる、開かれた大学」へと脱皮し、危機を乗り切ったことを紹介し、その実践例としての土曜教養講座、移動市民大学、沖縄戦と基地を考えるセミナーなどを説明するとともに、那覇市と協働のまちづくり(ムイクワ〈ジャスミン〉の香りが漂うまちづくり、エコキャンパスからエコシティへ、ジュニア研究支援など)を通して、共生実践する大学へと進化してきた経緯を述べた。
 最後に同氏は「地域をキャンパスとして教育活動を行い、地域をフィールドとして研究活動を展開することを目指している。教育と研究は表裏一体のものであって、地域に根ざした研究による裏づけこそが生き生きとした教育実践の展開を可能にする。また、そのような実践を通して持続可能な沖縄の経済社会の実現に貢献できるのではないか」と力を込めた。
 (2)「共同と共創による地域連携教育の実践」と題して、金沢工業大学企画調整部の福田崇之企画調整課長が、教育付加価値日本一をめざす同大学のビジョンは、学園共同体の理想とする工学アカデミアの形成であり、その“事業内容”は教育・研究実践により行動する技術者を育成し、社会に貢献することであるという。
 石川県石川郡野々市町に所在する同大学は、ビジネスパートナーとしての野々市町との間に、お互いにメリットをもたらす「地域連携教育プロジェクト」を立ち上げている。その取組事例の一つとして「安全安心まちづくり」を取り上げ、町の現状チェック、解決策の創出、解決策の実現に向けたアプローチ等の住民と一体となった活動を紹介した。
 併せてプロジェクト実施のための職員の役割・視点を解説し、実質的な効果をもたらすプロジェクトとなるような“大学教育”としての、また“まちの生涯学習”としてのPDCAサイクルに基づいた評価改善が必要であるとし、さらに、収益事業とするためには支援組織等も重要となると結んだ。

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