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平成19年2月 第2262号(2月14日)

金沢工大における日本経営品質賞への取組み −大規模部門で大賞受賞−

  金沢工業大学教育支援機構企画調整部次長  谷 正史

 金沢工業大学(石川憲一学長)は、「教育付加価値日本一を目指す」ことを掲げ、教職員が一体となって、継続的な改善に取り組んでいる。この原動力の一つになっているのが、日本経営品質賞であるが、このたび、この取組みについて、同大学教育支援機構企画調整部の谷 正史次長に寄稿いただいた。

 《日本経営品質賞に取り組む背景》

 金沢工業大学は、教育・研究の質をシステムとして継続的に保証し、向上を図るため、平成十一年から、日本の大学ではいまだ前例はない「日本経営品質賞(Japan Quality Award、以下JQA)」に挑戦を始めました。この経営品質評価の考え方は、米国を起源とし「国家品質賞」として世界六十数か国で採用され、大学も評価対象になっています。
 (1)本学の使命は建学の精神に基づく社会に有益な人材を提供することであり、このために教育の質を継続的に高めていく必要がある。このことは、卒業生が社会にどの様に受け入れられ、評価されているかを調査し、その結果を教育現場へフィードバックすることが必要で、このループにより教育内容や方法を改善できるトータルな教育システムの確立が望まれている。
 (2)米国大学経営戦略調査団の報告書では、一九八〇年代前後に二〇〇校近い大学が閉鎖した状況が調査され、生き残った大学の意見として、例外なく「顧客としての学生」に対するマーケティングと、満足度向上へのアプローチが不可欠、との報告があった。
 この考え方は、今後の本学の方向性を示すものであり、要約すると、「教育改革を継続する」と「主体的に学生満足度の向上を図る」の二点を実現するために、新しい手法としてJQAを用いて、「新しい教育システムの構築」と「大学組織の全体最適」を目指し、システム的に改善の様子を把握して、具体的にPDCA(Plan-Do-Check-Actionの頭文字をとったもの)サイクルをまわすというものです。

 《JQAに挑戦する狙い》

 挑戦の狙いは、現在取り組んでいる教育改革に事務職員も積極的に参画して、教職員全員のエネルギーを結集して、社会の変革に迅速に対応できる強い組織体に脱皮することです。
 本学は、これまでに第三者認証評価として、平成十五年度に大学基準協会、平成十七年度に日本高等教育評価機構から、さらに、専門分野の評価機関であるJABEEから評価を受け、教育・研究活動の実態を点検し、機能の検証に努めています。一方、社会から教育研究組織である本学の活動がどのように見えるのかという視点観点から、民間企業が数多く取り組んでいるJQAの評価基準にあてはめ、本学の活動とその成果を検証することも狙いの一つでした。

 《JQAとは》

 JQAは、一九九五年十二月に創設された表彰制度で、一九九〇年代の米国経済の復活に寄与したとされる米国国家品質賞「マルコム・ボルドリッジ国家品質賞(以下MB賞)」を範としているものです。MB賞は、その基準や審査プロセスをもとに自組織の経営を自己評価することを奨励しています。多くの企業はこのセルフアセスメントを行って経営革新を推し進めることで、MB賞の受賞へと至っています。MB賞の考え方は、日本でも体系化され多くの企業で取り組まれています。

 《JQAに取り組んだ経緯》

 @顧客満足度向上プロジェクト
 平成十一年一月末にJQA挑戦への前段階として、事務職員の意識改革の方法と新しい教育支援システムの提案を目標として、顧客満足度向上プロジェクトが発足しました。このプロジェクトでは、「顧客は誰か」、「顧客満足とはどういうことか」という議論から始め、本学が行う業務や機能が顧客とどのように関連しているかを可視化し、事務職員の意識を顧客指向とするための方策と、常に顧客を意識した改善に取り組むためのシステムや手法について検討されました。
 本プロジェクトの成果は、顧客の定義を「本学の最大の顧客は学生である」と位置付け、「学生満足度の向上」と、「本学の教育サービスの質の向上」に資する事務組織の機能がどうあるべきかを提案し、組織改革の方向性を示したことです。また、学生の視点で、本学の最大の使命である教育のあり方が検討され、その質の保証を外部からの視点に求めることが提案されました。
 事務職員の意識改革の方向性は、「一人ひとりの仕事が顧客としての学生とどの様に関連しているかを意識して、自ら進んで教育サービスの品質向上、顧客対応および業務の効率化を図れるように提案ならびに改善することができるようになること」と示され、学生満足の定義は、「本学が提供する正課と課外の全ての教育サービスにより、一人ひとりの学生が『…ができる』、『…が理解できる』と自らの能力が向上したことを実感できたこと」と示されました。当然ですが、学生にとって「面白おかしいこと」、「都合の良いこと」だけを提供するという、いわば迎合するという学生満足ではないことを申し添えます。
 A顧客満足度向上実施プロジェクト
 平成十二年七月に前プロジェクトに新たなメンバーを加え、顧客満足度向上実施プロジェクトに再編成されました。このプロジェクトは、「意識改革のための事務職員の研修実施」、「新しい事務分掌規定の提案」および「業務改善の展開」を目的としています。
 研修は、事務職員の意識を顧客指向に転換するために、組織の全体最適を目指しながら個々の業務改善に資する内容のもとして、JQAセルフアセッサー研修が選択されました。セルフアセッサーとは、JQAの審査基準の視点から現在の経営の仕組みが、事業の置かれている状況と経営目標達成にふさわしいかどうかの「適性度」を自己評価できる人材のことです。この研修はグレード一、二および三から構成されており、合宿形式で一三八名の事務職員が受講しました。
 また、この研修と並行して、前プロジェクトで提案された機能を業務に関連付けるために、事務分掌規定の検証と見直しが行われると共に、CS室(Customer Satisfaction)が設置され、学生や教職員の満足度向上を目的とする各種アンケートや聞き取り調査を実施するなど、改善サイクルであるPDCAの起点となる活動が展開され始めました。
 BJQA21プロジェクト
 平成十四年六月にはより多くのメンバーを加えたJQA21プロジェクトに拡大発展し、建学綱領に基づくビジョンの検討を起点として、学生、教職員の行動規範となるイーグルブックを作成すると共に、セルフアセッサーのスキルを活用して各々の部署での業務改善を始めました。また、経営品質に取り組む教育・研究組織の調査として、米国の教育機関として初めてMB賞を受賞したウィスコンシン大学スタウト校の経営陣を本学に招いて同校の取組みを学び、また、シンガポール国家品質賞に取り組んでいるシンガポール・ポリテクニックを訪問して多くの仕組みや具体的な制度を学びました。
 これらベンチマークした調査結果を参考に、本学は平成十五年度に、JQAの評価基準に則った申請書をまとめ応募しました。この際に得られた審査チームからのフィードバック・コメントから、多くの「気づき」を得ることができました。
 これらの「気づき」を基に、「新たな仕組みの構築」と「これまでの仕組みの改善」を繰り返し、これらの取組みと成果をまとめて平成十八年十月に全国企業品質賞に応募しました。この賞の審査プロセスは、資格確認、個別審査、合議審査、現地審査、判定委員会、賞委員会を経て評点が決定されます。
 全国企業品質賞は、栃木県経営品質協議会が所管するもので、平成十一年より栃木県内の企業を対象にJQA活動を啓蒙しており、平成十七年度にJQAと同じ評価基準を持った全国企業品質賞という枠組みを作り、県外の企業も審査対象に加えJQAへの申請のステップとしているものです。特に、地方の中小企業の経営革新に対する手厚い改善提言に特色があるとのことから、受審を決定したものです。はからずも本学は多年に渡るJQA活動の成果として、大賞を受賞することができました。

 《今後の展開》

 全国企業品質賞の審査チームから評価レポートという形で、審査総括とサブカテゴリー毎の「強み」、「改善に向けての提言」が届いており、今後この内容を分析し、継続した教育改革と顧客満足度向上の起点としたいと考えております。特に、組織の目的を達成するための能力を継続して高めるために、組織の中に恒常的な「学びの文化」を形成し、個の開発から組織の開発へ、また部分最適から全体最適へ向けて、組織能力の開発に注力したいと考えております。
 最後に、本学が開学以来一貫して「今、目の前にいる学生に必要なことは何か」に対する取組みを継続し、カリキュラムの主柱である工学設計教育をより充実・進化させるための「アクロノール」プログラムによる達成感と、それにもとづく「自ら学ぶ学生」の満足度の向上にJQA活動の成果を活用し、具体的な業務改善を推進いたします。

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