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平成18年2月 第2261号(2月7日)

"科学者が描く未来"とりまとめ
  政府「イノベーション25」の策定受け

 日本学術会議(金澤一郎会長)は、去る一月二十五日、「科学者コミュニティが描く未来の社会」をとりまとめた。今月中に発表が予定される政府の長期指針「イノベーション25」策定の取組を受けて、科学者コミュニティの代表機関として様々な学術分野を俯瞰し総合した観点から検討することとし、昨年の十月に「イノベーション推進検討委員会」を設置して、四回にわたり検討を行ってきた。主な内容は次の通りである。

 同報告書では、様々な国際的・地球規模での主要課題の解決を背景に、目指すべき社会と推進するべき具体的なイノベーションを挙げ、九つの分野に分けて、具体的な事例を紹介している。@「健やかに生きるための社会基盤」では、情報通信技術と医学の融合により、疾病や危険の予防が容易になる技術の開発等を挙げた。A「人々の安全・安心の確保」では、事故を未然に防ぐ予防安全技術の進展、車両への高度な運転支援システムやカーナビゲーションシステムの装備による交通事故激減を挙げた。B「文化・ライフスタイル」では、日本の文化・文明的遺産が多言語でディジタル情報化され、戦略的に日本の文化を発信している事等を挙げた。C「情報・コミュニケーション」では、折り畳んだり丸めたりできるディスプレイ、ホログラフィー技術及び通信技術の組み合わせにより、通信相手と同じ空間を共有しながら仕事をしているのと変わらない環境が整備されている事等を挙げた。D「新たなものつくりと基盤科学技術の創生」では、人工物には見られない極めて精巧な生物の構造・機能・形成を学ぶことにより、生命現象を解析するバイオインフォマティクスが、さらにナノ物性科学と融合した「ものつくり」が創生されている。E「国土・自然・地域の再生」では、日本発の新しい土木技術によって、古い文化遺産を保存した美しい景観の町づくりがなされる事等を挙げた。F「地球環境問題とエネルギー問題への対応」では、省エネルギー技術、環境浄化技術、二酸化炭素低減技術等の日本の先進環境技術を活用して、地球環境問題の解決に貢献している事等を挙げた。G「水・食料問題への対応」では、工学、経済学、地理学等を総合することにより、地域の気候・風土、社会・経済に適した水資源・水環境管理システムを構築し、都市化と人口集中が著しいアジアの水問題の解決に日本の技術が貢献している事等を挙げた。H「限界を突破する夢の実現」では、太陽光をマイクロ波に変換することができる人工衛星を打ち上げ、マイクロ波を地上で受けることにより、地上で太陽光をクリーンで効率的なエネルギーとして利用する宇宙太陽光発電の技術開発が行われる事等を挙げた。
 また、こうしたイノベーションを生み出す人材育成の仕組みとして、@複数指導教員制度導入など、世界から人材を集める大学院づくり、A自校出身者主義による弊害を避けるなど、学部教育の強化と開放、Bサイエンスリテラシー教育の充実など、初等中等教育における学問力の向上などが必須であるとしている。また、イノベーションを生み出す環境や研究開発システムの整備では、特色あるCOEを持つ地域大学の整備、イノベーションのための産学連携などを挙げている。イノベーションを生み出す社会制度設計として、人間の心理や価値観等の改革、イノベーションに失敗した人に再チャンスを与えるサポートシステムの構築などを挙げた。

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