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平成18年11月 第2254号(11月22日)

アメリカ大学NOW 日本⇔NY 大学事情を現地からレポート

アメリカの危機管理
 リスクマネージメントの現状

フランク マクドナルド氏

 「教育学術新聞」編集部では、大学改革の参考にしてもらうことを目的に、大学改革の先進国であるアメリカ合衆国の大学事情を不定期で紹介する。第三回はアメリカの大学のリスクマネジメント(危機管理)について、ペース大学のフランク・マクドナルド氏へのインタヴューを掲載する。なお、このコーナーの連載においては、日米間の大学コーディネートに実績のある現地法人の「UJHE(US Japan.H.E.NY.Inc)」と提携し、現地取材・インタビュー等を通して事例を提供してもらう。

 大学での危機管理の現状が、十一月六日付けニューヨークタイムズ紙の教育欄に大きく取り上げられた。同紙によると、アメリカでは二〇〇一年九月十一日のNYテロ、そして昨年のニューオリンズでのカトリーナハリケーンといった人為災害・自然災害を経験したことにより、大学機関の危機管理のあり方も多大な影響を受けた。なぜならばそれらの災害以降、新入生の保護者説明会において、まず保護者が大学側にする質問は決まっているからだ。「もし災害が起こったら、どう子供たちと連絡が取れるのか」「それに対して大学側はどんな準備をしているのか」ということである。
 保護者たちの心配する声に対応すべく、人為災害・自然災害、その他あらゆる事態に対応出来る危機管理体制を、今ではアメリカのほとんどの大学は整えている。今回はニューヨークマンハッタンの金融街にあり、グラウンドゼロと目と鼻の先にキャンパスを持ち、現在マンハッタンにある大学の中でも最高レベルの危機管理体制を持つ、ペース大学の安全&警備責任者フランク・マクドナルド氏へのインタヴューを紹介する。
 
 九月十一日の経験
 九月十一日の当日、私はキャンパス内にいました。グラウンドゼロからは四・五ブロックしか離れていないので、すぐに何が起こったのかがわかりました。既存の危機管理マニュアル通り、すぐにキャンパス内の人たちを外に避難させようとしました。が、市からの情報で、すべての交通機関がストップしているという情報を得たため、エレベーターがストップした場合を考え、すべての学生を階下へ避難させました。それに加え、行き場を失った周辺住民を受け入れました。周辺住民の災害時の受け入れは、大学のポリシーでもあります。災害当時、行き場を失った学生、特に外国人留学生、そして周辺住民をあわせると、当時三〇〇〜四〇〇人がキャンパス内に留まりました。周辺は煙が立ちこめていたので、我々はすぐに空調システムを作動。食料は、災害時の食料供給先と契約していたので問題はありませんでした。しかし、食料が徐々になくなり、空気も非常に悪かったので、避難をしていた人たちから動揺が見られるようになりました。そこで我々は五台のNY市バスを調達しました。幸運にも私達はキャンパスから一時間ほど離れた街、ウエストチェスターにもキャンパスがあります。その長所を生かして、最終的に避難場所の無い一〇〇〜一五〇人を(ほとんどは外国人留学生とNY外からのアメリカ人学生)を移動、学生寮に彼らの場所を確保することができました。その後、NYキャンパスは市の病院として開放されましたがその間も、我々スタッフはキャンパスを守るため、また学生の安否確認のための連絡、保護者からの連絡の対応などのためにキャンパス内にとどまりました。また、キャンパスのすぐ隣に学生寮があるため、その学生たちの為に別の滞在場所を探すのに追われました。幸運にも我々は、十日後に、当キャンパスにて授業を再開することができました。
 授業再開後、一番活躍したのはカウンセリングのスタッフです。彼らは大小様々なミーティングを学生に行いました。現在、カウンセリングに関するオンライン・ライブラリーでは、オンラインで相談が出来るサイト情報や、相談が必要だと思われる人へのカウンセリングをうまく進める方法など、様々な情報を得る事が出来ます。
 
 改革
 我々は、テロ災害に対して万全の体制を確立していたとは言えませんでした。最大の問題は、災害時の学生との連絡体制の不備でした。当日、キャンパスから外に避難した学生の何人かと連絡が取れなくなってしまいました。その経験を生かして、我々は大学の緊急時に対応する体制を明確にするための「緊急時対応プラン」の改革に着手しました。 我々は二〇〇一年十二月、大学の危機管理に精通する民間の危機管理コンサルタント会社から、災害にどう備えるかのガイダンスを受けました。そのガイダンスに加え、我々独自の経験をもとに、次のような改善をしました。
 まず、五つのキャンパスそれぞれに、緊急時コミュニケーションセンターを設置しました。学生の自宅電話番号に加え、現在は携帯電話番号、緊急時の連絡番号も把握、常に最新の連絡情報を管理しています。また、それぞれのキャンパスに災害時の自己電力システムを設置しました。
 新たに、学長を筆頭にエグゼクティブスタッフをメンバーとする「危機管理チーム」を結成し、災害時には、私を筆頭とする一一名のセキュリティーのプロフェッショナルで構成される(ほとんど全員がNYPD出身。NYPDは二〇年勤務後、定年退職出来る)危機管理チームがまず情報の収集、大学内外部との対応にあたります。その情報をもとに、この危機管理チームが実際に指揮し対応します。また、緊急時サポートチームを設置し、災害時には緊急時対応チームと危機管理チームの両方をサポートする万全の体制を確立しています。さらにインターネット、新聞等を通じて、大学に携わるすべての人に普段から頻繁に危機管理情報をわかりやすく提供しています。
 人為災害・自然災害への危機管理のノウハウを大学内の警備と犯罪率低下にも活用しています。インターネットに、ありとあらゆる場合にどう対処すればよいのか、連絡先も含めて詳細を掲載しています。アメリカでは毎年の学内犯罪率と、どんな警備体制を使っているかを政府に報告しなければなりません。学内の犯罪率は当校のウェブサイトにも掲載しています。人と機械の警備を駆使した結果、我が校は都心と郊外に複数のキャンパスを持つ同じような他一二大学に比べても抜群の低犯罪率を誇っており、保護者にも好評を得ています。近年、学生募集にも危機管理体制の充実度は直接反映しており、今後も学生保護者にとって大学を選ぶ際の重要なポイントの一つになるでしょう。

 Mr. Frank P. McDonald(フランク マクドナルド氏)
 元NYPD(ニューヨーク・ポリス・デパートメント)出身。一三年前にペース大学の安全&警備責任者(Executive Director of Safety & Security)に就任。大学全キャンパスの危機管理の責任者として手腕を発揮。今年二月には、一般向けサービスの財務・運営準副総裁(Associate Vice President for General Services、Finance and Administration)にも就任。安全&警備と合わせて、それ以外の部門の統括責任者となる。また、刑事裁判&警備のクラスの助教授としても、二二年間、同大学にて教鞭をとっている。

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