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平成18年11月 第2253号(11月8日)

研究費の節約をルール化せよ 大学側の研究者支援も重要
  北澤宏一氏(JST理事)に聞く研究費不正問題

 ―研究費の不正利用とは何か。
 研究費の不正の典型例は、現場の研究室と、研究室に実験機器等を納める業者との合意で行われる。その方法は、品物の納品を伴わないカラ伝票であったり請求金額の水増しであったりする。これにより、研究室はお金が無いときにはその業者から借金し、余裕ができたときには貯金することができる。貯金ができれば、万一、翌年度に十分な研究費が得られなくても、研究室が困ってしまうことはない。家庭でいえば主婦のへそくりと同じだ。
 一方、一部には、このような方法で作られた貯金分のお金が研究者に還元され、自由に使えるお金となる場合がある。いわゆる、キャッシュ・バックと呼ばれるものである。こうしたお金は、多くの場合、大学院生の交通費など、こまごまとした研究室の活動に必要な諸経費に使われることになる。研究室の活動費は、俗に一日に一万円程度が小さな研究室でも必要とされる。領収書のもらいにくいもの、スーパーや一〇〇円ショップなど、見積・納品・請求の書類を一つ一つはやっていられないことに使われているのが現状だ。

 ―何故こうした不正が起きるのか。
 根本的なところで、日本は、ホンネとタテマエの社会であることが問題のひとつである。ホンネとタテマエの乖離は、予算を執行する国側の力が強すぎると、往々にして起こってしまう。具体的には、国の予算執行システムは単年度会計であり、年度内に予算を「消化する」ことが原則とされている。仮に「消化しきれなかった」場合は、予算計画そのものに問題があったと評価されてしまう。だから、研究者は年度末には、何とかして予算執行残高をゼロで終わらせなければならない。
 しかし、「研究」というものはそうそう予定通りにいくものではないし、研究者は年度を繰り越してでも研究費を使用したい。研究費を節約しても繰り越せないのなら、タテマエ上だけはゼロにしてしまおう、という考えになる。国が無理なタテマエを通そうとすると、どうしてもタテマエでは問題に対処できない現場にしわ寄せが来てしまう、という非常に根の深い構造的な問題と言える。

 ―不正を防止するにはどうすればよいのか
 アメリカの場合を例に出すと、規則(タテマエ)をきちんと守ることが徹底している。そのかわり、研究者側が守れる範囲の規則にしている。今後の日本も、規則で罰するというのなら、守れる規則にするべき。
 それでは「守れる規則」とは何かというと、例えば、国立衛生研究所(NIH)、全米科学財団(NSF)などアメリカの資源配分機関は、研究費を節約したら、翌年に繰り越せるようにしている。一年間であればほぼ自動的に延長して予算を使用しても構わない構造になっている。二年以上の繰り越しについても、予算供給側に研究経験者のプログラムオフィサーがいて、彼らに繰り越しを願い出てOKが出れば繰り越せる。連邦政府としても、資源配分機関から大学に委託されてしまったら、その時点で「お金が使い切られた」と判定している。
 日本の科研費等も、節約して翌年に繰り越せるようにする必要性があるだろう。予算消化という感覚でやるのか、なるべく節約して効率よくやるのかで、研究費の使い方に二倍の差は出る。国民からすれば、研究費は節約して効率よく成果を出してもらいたいという要望があるはず。どうしたら、効率よく予算を配分できるかを考えるのが資源配分機関の義務でもある。節約したお金は翌年度に繰り越せるということを実質的に可能にすることで、節約の動機付けになる。
 なにより、不正の根本原因は「普段節約しておいて研究費がうまく当たらなかった年に備える」ということにあるので、「節約して繰り越す」という精神を根本にすべきであろう。

 ―大学は研究者をどう支援すればいいのか。
 先ほどの大学院生の交通費や学会出張関連費などは、テーマが決まっている研究費からは支払いにくいものも多い。大学の研究室に廻ってくる研究費以外のお金はほんのわずかである。従って、科研費など競争的研究資金における間接経費をまずきちんと三割確保することが重要だ。そして、大学は研究からの支出の難しい研究室運営経費について、三割の間接経費から面倒を見るのが筋である。それも、できれば寄付金など、税金ほどに使用に当たっての制約が厳しくないお金が望ましく、また、当然年度をまたいで繰り越せる必要がある。
 また、研究費の管理を研究者個人に任せず、大学側で支援する必要もある。さらに、大学側は面倒くさがらずに研究室と協力して、繰越明許の申請を行い、研究費を節約して繰り越すという節税のマインド醸成に協力すべきである。

 ―今後、国の対応はどうなる。
 話をまとめると、四つのポイントがある。一つは、研究者自身の意識の問題。二つは、大学が研究室の運営を支援する問題。三つは、財務省や文部科学省が法的な制度内容を考える。四つは、資源配分機関が努力すべきこと。これらがうまく噛み合って回らないと、根本的に不正利用の問題は解決しない。
 しかしながら、文部科学省の今後の方針は、マスコミなど世論の問題もあり、研究者の更なる締め付けが先行することになると思う。つまり、タテマエが強化されるということだ。そうすると、今までは、研究室の中で大学院生も含めた形で比較的オープンに経理がやりくりされていたが、今後は隠れて陰湿に不正を行うようになる。これはむしろ危険な方向だ。節約できる予算制度をとるか、「予算を使い切る」ことが重要というマインドで税金を使うか、その善悪ははっきりしている。

 ―大学にアドバイスを。
 研究者は、もっと現場の声として自分たちの意見を上げるべきだ。ホンネを言っていかないと、制度は改善されない。今後、ますます研究者は辛い立場になるだろう。今は大学の教職員は声を潜めているが、これはよくない。
 また、私立大学が行うべきことは、このような矛盾に研究者がさらされている現状を考えて、もしも研究大学を目指すのであれば、研究室運営を大学が積極的に経理上も支援すべきである。私立大学の方が研究しやすい環境になると、いい研究者が集まってくる。そうすれば、研究費が集まり間接経費が増えるから、大学にもお金が入ってくる。研究室をバックアップすること、特に教育費を確保することは大事なことだ。

 ●北澤宏一氏●
 東京大学工学系大学院工業化学専攻修士課程修了。マサチューセッツ工科大学冶金および材料科学専攻博士課程修了。東京大学大学院教授等を経て、科学技術振興機構(JST)理事就任。文部科学省研究費の不正対策検討会委員。

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