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平成18年10月 第2250号(10月18日)

大学教務部 課長相当者 研修会を開催 255大学・450名が熱心に研修

「教育力」テーマに講演・事例報告など

 日本私立大学協会(大沼 淳会長)は、去る十月十一日から十三日まで、新神戸市内のホテルにおいて、平成十八年度(通算第四四回)大学教務部課長相当者研修会を開催した。同研修会は、大学教務研究委員会(担当理事=小出忠孝愛知学院大学学院長・学長、委員長=橋本弘一帝塚山大学特別顧問・理事)が準備を進めてきたもので、大学教育・研究の充実に関する共同研究を行い、大学教務の業務改善を図るとともに資質向上に努めるもので、加盟三七一大学から二五五大学四五〇人が参加して、熱心に研修が行われた。

 研修会全体のメインテーマは、本年で三回目となる「大学教育力の強化」。ユニバーサルアクセス段階にある日本の高等教育は、多くの大学で学生の多様性に向き合わざるを得なくなっている一方で、新しい教育方法やシステムを開発することによって、学生たちが見違えるように成長することも検証されるようになってきた。このたびの研修会の多くの講師が口をそろえて主張するように、教員主導のカリキュラムや教育手法から、学生中心のカリキュラムや教育手法へと変革を行わなければならないが、問題となるのはこうした変革を具体的にどうやって実行していくのか、ということである。
  研修会では、まず、同協会の森田嘉一関西支部長(京都外国語大学理事長・総長)と、小出担当理事の挨拶の後、小出秀文事務局長より私学を取り巻く諸情勢についての講演があった。
  続いて、研修目標について、同委員会副委員長の福島一政日本福祉大学常務理事・学長補佐・大学事務局長が解説、「学生の多様化が進む中で、大学職員自身が教育マネジメントを身につけていかなければならない」などと訴えた。
  橋本委員長からは、大学発展の要因は、(1)明確な理念目標の設定、(2)発展のための方略、(3)点検・評価の実施、(4)意識改革と危機感、(5)全学で協力プロジェクト、(6)規律・学則の遵守である、と述べ、この実行には何よりも、理事会、教員、事務職員、同窓会、学生が一致協力し、それぞれが努めることが重要であると主張した。
  同研修会では、毎年、中長期的な視点から見た大学像について、各界の識者が講演する「大学の未来像シリーズ」を実施しているが、このたびは、関西大学元学長で大学設置・学校法人審議会会長の永田眞三郎氏が演台に立った。同氏は、同審議会の経験を元に新しい大学作りのための視点について述べた。大学改革とは、「売れる商品=社会にニーズのある人材を育てること」であり、このための教育研究活動を行う教員を支えていくべきである。「今の大学が、ニーズにあった教育をしているか、予備校以上のことをしているか、常に反省する必要はあるだろう」と述べた。
  二日目は、特色GPに採択された三つの大学から発表があった。はじめに、正課教育と正課外教育の有機的な連携による効果的な学習支援について、関西国際大学の濱名 篤理事長・学長が講演した。同氏は、関西国際大学の学習支援・学生支援システムの取り組みについて解説し、特に学習支援センターの発展プロセスについて述べた。同センターによる個別相談の経験の蓄積をもとにして、正課外のショートプログラムを設計・実施、さらにこの取り組みをもとに、正課授業に発展する学生支援のきめ細かな過程を解説した。また、初年次教育のもっとも大事な点は、学生のモチベーションを上げたり、目標を達成させることで、こうした意識の向上を組織的に行う必要があるとした。
  続いて、学年制や必須科目の廃止など、学生個々の知的欲求に応え得る個別重視型教育について、同委員会の委員でもある東京電機大学の中村尚五情報環境学部長・教授が講演を行った。同氏は、まず、多様化する学生への対応として、従来からの教育方法を抜本的に見直す必要がある、と強調した。そして、同大学の取り組みとして、導入教育の実施やセメスター制の採用、事前履修条件(ある科目を履修するのに、事前に指定した科目の成績をある条件以上にする)、単位制、GPA制度の活用、卒業までのカリキュラムを自分で作成・更新させる「ダイナミックシラバス」を挙げた。また、企業から学生用に課題を提出してもらい、この課題を解く「プロジェクト科目」等産学協同による人材育成、TOEICベースの英語教育等、多彩な教育システムを紹介した。
  三つ目には、全教員を対象にした公開研究授業の組織化などFDの組織的展開について、大同工業大学の曽我静男学長補佐が講演した。同大学では、学生の多様化に対して、授業実践を支援・改善し、充実させることで対応している。具体的には、授業開発センターを組織し、公開研究授業と授業研究会の運営、センター所報「授業批評」の発行などを行っている。公開研究授業は、数名の教員、事務職員が授業参観を行い、アンケートを提出。その後の授業研究会では、教員によって授業方法論的観点と授業内容の観点からの討議を行っていく。こうした取り組みは、五年間でのべ一〇〇〇名の教員が参加し、ほとんどの教員が「やってみてよかった」という感想を持ったという。最後に、「FD活動は終わりなき日常的な授業改革活動と覚悟しなければならない」と述べた。
  二日目の午後には、日本私立学校振興・共済事業団の比留間進私学経営相談センター経営相談班長より、平成十八年度大学入学者選抜の状況と私立大学の経営改善と題して講演があった。同氏は、経営相談に訪れる様々な大学のエピソードを交えながら、経営改革のヒントを述べた。具体的には、職員は教員に対して多くの提案をしていくべきで、教員と職員は同等の立場で取り組んでいく必要がある。教員も新たな分野を勉強しつつ、新商品(科目)の開発を行っていかなければならない。頑張って伸びている大学は、何かしらの地道な努力をしており、一人の学生に対して、どのくらい思いやりをかけられるかの意識が重要である。また、静岡産業大学の事例を出しながら、冠講座には、学生は生の声が聞け、教職員はカリキュラムの参考に、大学としては寄付や就職先の開拓、また、マスコミのパブリシティになると父母が喜ぶ、と様々なメリットがあることを紹介。さらに、カリキュラム評価は学内ではなく、企業の人事担当者などにお願いするのがよいと星城大学の事例を用いながら述べた。同氏は、「大学の外にどんどん出て行ってほしい。企業や他大学には改革のヒントになる情報がたくさん転がっているし、外部からの協力は必要である。やらない理由を考えるのではなく、どうしたらできるかを議論しあってほしい」と取り組みの姿勢を強調した。
  三日目の午後には、「認証評価の実際と教育研究の充実に向けた活用」と題して、(財)日本高等教育評価機構の認証評価の経験を踏まえて、金沢工業大学と熊本学園大学の事例が紹介された。
  まず、金沢工業大学からは、久保猛志教授・教育点検評価部長による報告があった。同氏は、同大学がこれまでに取り組んだ外部評価について、具体的な評価内容を踏まえて紹介した。具体的には、日本経営品質賞委員会、(財)大学基準協会、(財)日本高等教育評価機構、そして、日本技術者教育認定機構(JABEE)による評価を一つ一つ紹介。同大学が審査で受けた「強み」や「改善点」等について述べた。
  最後に、熊本学園大学の目黒純一常務理事は、自己点検・自己評価報告書では、大学の長所を書くことが大事であるが、夢を書くのではなく、現実を踏まえた将来の方向性を書くことが重要である、と述べた。また、カリキュラムについては、どういう人材を育成しているのか、その裏づけと証明をどう考えるか、多様化する学生が、このような履修をすると、このような就職がある、という具体的な内容かどうかを検証するべきであると指摘した。最後に、「今後、大学評価とはどのようなものかを全国の高等学校に説明できるよう考えておく必要がある」と、大学評価について社会に理解を求めていく必要性を訴えた。
  なお、二日目の午後、三日目の午前中にかけ、班別の研修があり、それぞれの大学の特性にあった課題について議論が交わされた。

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