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平成13年12月 第2043号(12月5日)

井リポート/学校運営の現場から
 個性輝く大学を訪ねて 大妻女子大学

「心の時代」を先取りして精進
日本私立大学協会顧問・弁護士 井伸夫

 教育界において大妻女子大学が注目を浴び評価され出したのは、昭和六十一年頃からであるという。
 その頃、多摩キャンパスが造成され、以後、平成四年に社会情報学部、平成十一年には人間関係学部・比較文化学部が開設されるなど、現在、五学部一一学科、大学院三研究科の規模を誇る日本有数の女子大学となっている。
 同大学が他の大学からその存在をより強く意識され始めた所以は、中川秀恭理事長のリーダーシップのもと、「個性輝く大学を目指す」という方針の実現のために大学関係者が邁進したことによる。
 個性輝く大学を目指すために、中川理事長は、創立九十三年という同大学の歴史と伝統を重んじることをまず第一とし、創立者である学祖大妻コタカ女史の掲げた校訓「恥を知れ」を堅持している。
 「恥を知れ」とは、「己を省みて恥ずることなからんことを期せよ」という意であると説いておられる。そして、何を基準として「恥なきを期するか」について、ご自身は、「人間として恥なきことを期せよ」と解しておられるという。
 こうした確固たる教育理念の存在が、「個性輝く大学」として評価されている根本的所以であろう。
 このような人間の本質を深く真摯に捉えようとする同理事長の高潔な理念の由来は、その経歴からも窺える。同理事長は東北帝国大学哲学科・イェール大学神学大学院・文理学大学院等を卒業後、北海道大学等で教鞭を取られ、北海道教育大学、国際基督教大学及び大妻女子大学の学長を経られた後、現職に就任されたのである。いわば人間教育の専門家なのである。
 先に述べた「恥を知れ」ということは人間の心を大切にするということであるが、現在はこれがあまりにも希薄になっている。その中において大妻女子大学は、人間の心を強く意識させることを教育の基本としている。それこそが、同大学の個性といってよいのではないだろうか。卒業生が実社会において「真面目で信頼が置ける」という評価を受けていることは、まさに大学でのこの指導が結実した現れとも言える。
 また、同大学は学生たちに薫育を施す、人間としての心のありようを説くだけではなく、極めて充実した専門教育を授けている。
 即ち、学生の質は入学時における資質・能力に対して、在学中にいかに「付加価値」を付けられるかということで最終的に判断すべきであるという信念のもと、同大学は極めて実践的かつ有益な教育を行っている。学生の資質・能力を開花・成長させてこそ初めて、大学教育の意義があるという意気込みなのである。しかしそのためには、学生を啓発する立場にある教員に、研鑽を積む意欲と自己改革を行う能力が不可欠であることは言うまでもない。
 同大学の教育の成果を具体的に紹介しよう。
 まず第一に、同大学の就職率の高さを強く指摘しなければならない。
 平成十三年三月期卒業の学生の就職率は、学部は九六・四%、短大は八九・七%、いくつかの学科・専攻では一〇〇%と極めて高い。これは大学による積極的かつきめ細かい就職指導(他大学の三倍のプログラムを実施)のもと、学生が「大妻は就職率が高い」という伝統に自信を持って粘り強く活動している成果であろう。
 第二に、家政学部・食物学科・管理栄養士専攻の学生及び卒業生の国家試験の合格率の高さも特筆・大書すべき事柄である。
 今や難関となった管理栄養士試験において、同大学はこの一一年間毎年九〇%以上の合格率を誇っているという。同試験の平成十三年全国平均合格率は、二一・四%であったのに対し、同大学のそれは、実に九六・七%であった。しかも、毎年卒業生全員が受験しているのである。勿論、他の大学の当該学科ではそのような事実はない。要するに、いかに教員が学生の教育に熱心であるか、管理栄養士の分野における新しいテーマに、貪欲に取り組んでいるかを物語っていると言ってよいであろう。
 このような教育の成果に甘んじず、同大学は更に優秀な学生の確保のためにオープンキャンパスの実施、教員による高校での出張授業等、努力を怠らない。そして二十一世紀になってからは、大学全体で「社会が変わる。私が変える、私も変わる」という佐野博敏学長の手によるキャッチコピーを全面的に展開している。
 ここでは同大学の人間として即ち生きた教育姿勢の一端を紹介したに留まるが、要するに学生を、人間性をいよいよ発揮する存在たらしめるための教育活動として、心の問題をも踏まえて、知識・技術・技能の訓練に怠ることのないよう大学全体が一体となって懸命な努力をしているところに根本があると言ってよい。
 産業社会は「足・腰の時代」であった農業社会から、「手先の時代」の第二次産業・工業社会、そして、「自己表現力・口先の時代」の第三次産業・商業・サービス業社会を経て、今、まさに頭脳労働、「考える」「思う」「感ずる」ことを武器とする産業社会・ソフト産業の時代へ変換しつつある。そして、これが更に進めばその上位概念である「心の時代」、即ち心を武器とした産業社会が到来することは必至であろう。「心の時代」には、良心を核にして自立心・連帯心・向上心を刺激し続ける教育が必要とされることを、これからの学校教育の現場は念頭に置かなければならない。その意味で、同大学は、「心の時代」を先取りした形で精進し続けているとも言える。
 ここにこそ、大妻女子大学が個性輝く大学たり得る根源があると言ってよいであろう。

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