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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.596
「フォローアップ」システムの確立と独自性の評価を
―認証評価の第3クールに向けて―

研究員  吉田 修(愛知産業大学教授・学長室長)

 本稿では、(公財)日本高等教育評価機構の「認証評価」における私の経験を手掛かりに、現在高等教育において実施されている「認証評価」について、若干の分析と提案をおこないたい。

(1)第2クールの認証評価から
 平成16年度に開始された「認証評価」という活動は、日本の高等教育が初めて経験する、通常の教育研究活動とは異なる活動であり、そこに係わる全ての教職員に「強い緊張」を強いるものであった。
 その結果、「評価疲れ」等の批判を受けることとなった。しかし、そのような批判を受けながらも、認証評価の活動は明らかに「日本全国の高等教育機関に共通認識を伝播」し、現在では「認証評価は日本の高等教育機関において文化になった」といっても過言ではない。
 この意味で、日本高等教育評価機構を含め、各認証評価機関の功績は大であると評価する。
 ところで、認証評価における「評価員」(評価する側)としての私の経験や、同僚の評価員との意見交換から、近年次のような問題が指摘されることが多くなってきたような気がする。例えば、「評価書の文章の整合性が取れていない」、「エビデンスの理解が不十分である」、または「全体的なチェックがない」等々、手厳しい意見を聞くことがある。
 私がこのような批判を耳にするようになったのは、平成24年度から開始された、いわゆる「第2クール」と呼ばれる評価基準・評価方式に移行してからであるように記憶している。

(2)「自己点検評価書」とエビデンス
 日本高等教育評価機構の第2クール(平成24年度以降)では、第1クール(平成17年度〜平成23年度)の反省を生かし、認証評価の「実施大綱」に「自律的且つ日常的な評価活動」を大学の中に根付かせることと、「自己点検をエビデンスに基づいて客観的に行う」が明示された。
 振り返って、「評価員」(評価する側)としての経験ばかりか、「評価される側」(受審大学の教職員)としての私の経験から判断しても、第1クールの段階では認証評価の内容を熟知した教職員は多くなく、結果、受審大学では認証評価に関する知識を持った少数の教職員が中心となって文章を作成・点検し、最終調整を図ることによって、全体に整合性の取れた「自己点検評価書」が作成されたと推測される。
 ところが、第2クールに入ると、今まで以上に多くの教職員が参加し、「分担作成」する方式を採用する大学が多くなった。これは、認証評価が個人ではなく大学という組織で対応するという、認証評価に対する正しい認識の表れでもある。しかし、それ以上にこのような「分担作成方式」を一層加速させた要因に「エビデンス」の収集と分析が第2クールから要求されたことが大きくかかわっている。
 即ち、第1クールでは、ある程度少人数の教職員によってまとめられた場合が多いように推測される。
 しかし、第2クールでは、全ての基準に多様なエビデンスが要求されることによって、エビデンスの細部を熟知する教職員による「分担作成方式」が採用され、「自己点検評価書」は必然的に多くの担当者により作成されることになったと推測される。
 このような「自己点検評価書」の作成方式の変化は、結果として、前述の批判、即ち「自己点検評価書は各部署の情報の寄せ集めであり、統一性のないパッチワークとなっている」との批判を引き起こすようになった、と私は考える。

(3)「分担作成方式」とパッチワーク批判
 ところで、私が所属している大学が受審した経験、即ち「評価される側」(受審大学の教職員)の経験から申し上げるならば、第2クールでは第1クールより大幅に多くの担当者(教員あるいは事務職員を問わず)が作成に携わる「分担作成方式」が採用された。そして、実際にこの分担作成方式の過程を経験してみて、このような方式こそ日本高等教育評価機構の「認証評価」の趣旨に最も適している方式ではないかと感じた。なぜならば、このような「分担作成方式」によって、より一層認証評価に関する共通認識は大学の教職員の隅々にまで浸透するとの確信を深めることができたからである。勿論、「分担作成方式」は、一般的に「文章や考えなどを寄せ集めて、つなぎ合わせただけの文章」を作成する方式の総称としての「パッチワーク」方式と同一視され、厳しい批判があることは承知している。しかし、私は敢えて「自己点検評価書」の作成に関して、「先ずは分担作成方式の採用」を推奨したい。その理由は、前述の通り、認証評価に関する共通認識を大学の教職員の隅々にまで浸透させていくために最適の方法と考えるからである。また、本学が第2クールの認証評価を「全員体制」でスムーズに受審できたのも、この方式を学長のガバナンスの下に採用したのが大きな要因であったと確信しているからである。
 勿論、「分担作成方式」は同時に以下の作業がなされない限り、パッチワークという批判を受けることになる。
 @担当教職員が担当基準等を自らの「課題発見授業」(PBL)として積極的に取り組み、相互に意見を交換しあう作業を通して、認証評価に関する共通認識を形成する。
 A「自己点検評価書」の作成とそのPDCAサイクルを媒介に、大学全体の内部質保証としての「自己点検評価」の全体像を共有する。
 B「学長のガバナンス」によって、全体的な整合性・統一性を確保する。

(4)「フォローアップ」システムの確立と独自性の評価を
 以上の通り、「分担作成方式」を推奨する前提には、教職員の「相互意見交換」や「全体像の共有」、そして「学長のガバナンス」の存在が必需となる。そうでなければ、単純なパッチワークとの批判を受けざるを得ない。従って、評価員(評価する側)には、「分担作成方式」はより質の高い自己点検評価活動への発展の一段階であるとの認識を持って認証評価にあたっていただきたい。勿論、一段階であるからと言って評価を甘くするということではなく、もし評価書の不整合等の問題に遭遇された場合には、「実地調査」などで受審大学(評価される側)と十分時間をかけて「ピア・レビュー」を行っていただきたい。そして、このような「評価する側」と「評価される側」が内容的にも期間的にも「十分なコミュニケーション」を取ることができるシステムの確立こそが、次の「第3クール」(平成30年度から実施予定)に私が期待するものでもある。
 そこで、もう少し具体的に第3クールに対する要望を記して、この稿を締めたい。
 第一に、認証評価の「ピア・レビュー」(peer review)の精神の根本にある「コミュニケーション」を一層充実させ、認証評価機関と受審大学との「継続的コミュニケーション」の実現を望みたい。特に「継続的なフォローアップ」システムの検討をお願いしたい。
 第二に、認証評価のための「最低限の共通基準」という認識を超えて、「各大学の独自性・特色」を支援する、言い換えれば、真の意味で「個々の大学の発展を支援する活動」を可能にする「新しい評価基準」の構築をお願いしたい。
 第三に、平成16年度から始まった日本の高等教育における認証評価活動に関する認証評価機関の貢献は大であると考えるが、各認証評価機関「自身」の自己点検・評価の実施と公表をお願いしたい。

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