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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.582
アクティブラーニングの評価
〜ラーニング・ポートフォリオの活用〜

客員研究員  土持ゲーリー法一(帝京大学高等教育開発センター長・教授)

 文部科学省は、アクティブラーニングの「促進」から「加速」にギアを切り替え、具体的な取り組み事例を奨励している。アクティブラーニングの加速の事例の一つとして「反転授業」がある。これは、中教審答申の学修時間の増加・確保と相まって効果的な授業方法の一つである。筆者も、反転授業を実践しているが、学生の予習復習の時間が増え、事前学修もやってくることから、教室内の活動も活発になり、主体的な学びにつながっている。
 大学教員がアクティブラーニングを自らの授業に取り入れない理由の一つは、評価の難しさと無関係ではない。すなわち、講義の場合、評価が簡易であるばかりでなく、授業の準備もやりやすい。アクティブラーニングを導入した場合、授業の進み具合が不透明であるばかりでなく、授業をどのように進めるか、管理能力も問われる。しかも、「教育から学習への転換」(パラダイム転換)により、アクティブラーニングが注目されるようになった結果、学習成果としての評価の問題は避けられなくなった。
「パラダイム転換」の影響を受けて、これまでの知識の評価に留まらず、技能・態度をどのように評価するかが問われるようになった。とくに、アクティブラーニングの評価は数量的な評価では難しく、質的な評価でなければ測定できない部分が多い。すなわち、技能・態度の側面の評価の部分が少なくないことから、従来の筆記試験の知識だけでは十分に対応できなくなった。下の図表からも明らかなように、ポートフォリオ(ラーニング・ポートフォリオ)のみが、知識・技能・態度の三つの領域を幅広く評価できることがわかる。すなわち、アクティブラーニングの評価には、ラーニング・ポートフォリオが効果的であるとわかる。
 ディー・フィンク博士は、筆者との対談(注:主体的学び研究所HPを参照)で、アクティブラーニングには三つのレベルの活動があり、それぞれが互いにつながっていると説明している。一つ目は、学生が「情報あるいはアイデア」を何らかの方法で得るもので、講義、書物や文献の読書などが含まれる。二つ目は「経験」であり、ここで能動性が発揮される。このレベルでは、現実あるいは生活における経験を必要とする。ここでの経験は物理的な行動を指すのではなく、「知的な行動」のことである。たとえば、考えながら質問をする、質問に迅速に答える、問題を考えながら解く、判断するなどの知的な行動である。
 最後が「省察」の部分で、学生は二つの振り返りをする。一つ目は、教科に対するもので、たとえば、地理学を勉強したり、経済学を学んだりしている場合は、多くの文献を読み、用語集を作り、主題に関するいくつかの事柄を集めて小論を書くなどは、教科に対する振り返りである。二つ目は「省察」に対するもので、最近、アメリカで注目されているもので「学習プロセス」について振り返ることである。学生が学習プロセスについて振り返ることは、一般的でないが重要である。自らの学習を振り返り、自らに問いかけて学習プロセスを振り返り、何をうまく学べたか。何をうまく学べなかったか。どのように学んだか。読書からか、実行からか、それ以外のことからか。何が学習を助けたか。何が学習を妨げたか。学習者としてどのような意義や価値があったかなかったか。今後の社会的生活、地域での生活や市民生活に役立つかを振り返ることである。そして、最終的に、コースが終わった後、将来も学び続けたいか。もしそうであるならば、どのようにして学び続けるか、別のコースを履修するのか、本を読むのか、何か別のことをするのか、誰かに話をするのかなどが考えられる。学生がそのような振り返りをするとき、学習プロセスを振り返ることになる。学生がこれらの振り返りを繰り返すことで、学習者としてのパターンに気づく。すなわち、学習について理解し、学習者としての自分を理解することができる。学生が深い理解に達することで、学習者としてだけでなく、「メタ学習者」となることができる。その結果、教科としての地理学を学んでいるだけでなく、学習についても学んでいることなる。学生がメタ学習者になるときにのみ、自己管理ができる学習者となる。すなわち、自律的学習者ということができる。メタ学習者となるには、学習から一定の距離を置いて自らに問いかけながら、学習プロセスを振り返ることである。
 下の図表は、フィンク博士の「意義ある学習を目指す授業設計」としての能動的学習(アクティブラーニング)を示したもので、「省察」の事例として学習(ラーニング)ポートフォリオが効果的であることを紹介したものである。なぜ、ラーニング・ポートフォリオが「メタ学習者」となるために効果的な方法なのか。それは学習プロセスを振り返ることに重点が置かれた教育方法であるからである。しかも、ラーニング・ポートフォリオは証拠資料にもとづいてまとめられるので、学生の振り返りを促すのに適している。証拠資料なしの振り返りは、単なる業務日誌に過ぎない。
 筆者は、学生にラーニング・ポートフォリオを作成させるときに、「コンセプトマップ」を描かせて、授業の振り返りを促すようにさせている。最近では、コンセプトマップを用いることで、「深い学び」につながるとの研究成果も出ている。

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