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平成19年2月 第2263号(2月21日)

研究資金の機関管理徹底を  研究費の不正対策検討会が報告書

 競争的資金等の機関内管理の徹底を―文部科学省は、公的研究費の不正使用問題を受け、このたび、「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」をまとめた。外部有識者で構成された「研究費の不正対策検討会(主査:石井紫朗東京大学名誉教授)」のもとで検討が行われ、報告書としてとりまとめられたもの。研究機関が実施すべき事項は次の通り。

 同ガイドラインは、文科省又は同省が所管する独立行政法人から配分される、競争的資金を中心とした公募型の研究資金(以下、「競争的資金等」)について、配分先の機関において適正に管理するために必要な事項を示したもの。同ガイドラインは、次の二つを大前提に作成されている。
 第一に、競争的資金等は、その原資が税金である以上、国民の信頼に応えるため、その管理は研究機関の責任で行うべきである、というこれまでの原則の一層の徹底が適当である。
 第二に、競争的資金の管理を委ねられた機関の責任者は、研究費の不正な使用の可能性が常にあるという前提の下で、不正を誘発する要因を除去し、抑止機能のある環境・体制の構築を図らなくてはならない。
 各研究機関が実施するべき課題等は次の通り。

 《機関内の責任体系の明確化》

 機関全体を統括し、競争的資金等の運営・管理について最終責任を負う者(以下、「最高管理責任者」)を定め、その職名を公開する。最高管理責任者は、原則として、機関の長が当たる。最高管理責任者を補佐し、競争的資金等の運営・管理について機関全体を統括する実質的な責任と権限を持つ者(以下、「統括管理責任者」)を定め、その職名を公開する。機関内の各部局等(例えば、大学の学部、附属の研究所等、一定の独立した事務機能を備えた組織)における競争的資金等の運営・管理について実質的な責任と権限を持つ者(以下、「部局責任者」)を定め、その職名を公開する。最高管理責任者は、統括管理責任者及び部局責任者が責任を持って競争的資金等の運営・管理が行えるよう、適切にリーダーシップを発揮しなければならない。

 《適正な運営・管理の基盤となる環境の整備》

 一、ルールの明確化・統一化
 競争的資金等に係る事務処理手続きのルールについて、以下の観点から見直しを行い、明確かつ統一的な運用を図る。@研究者及び事務職員が分かりやすいルールを明確に定め、運用の実態が乖離していないか、適切なチェック体制が保持できるか等の観点から常に見直しを行う。A機関としてルールの統一を図る。ただし、研究分野の特性の違い等、合理的な理由がある場合には、機関全体として検討の上、複数の類型も可能とする。また、ルールの解釈も部局間で統一的運用を図る。Bルールの全体像を体系化し、研究者及び事務職員に分かりやすい形で周知する。C事務処理手続きの相談を受け付ける窓口を設置し、効率的な研究遂行を適切に支援する仕組みを設ける。
 二、職務権限の明確化
 競争的資金等の事務処理に関する研究者と事務職員の権限と責任について、機関内で合意を形成し、明確に定めて理解を共有する。業務の分担の実態と職務分掌規程の間に乖離が生じないよう適切な職務分掌を定める。各段階の関係者の職務権限を明確化する。職務権限に応じた明確な決裁手続きを定める。
 三、関係者の意識向上
 研究者個人の発意で提案され採択された研究課題でも、研究費は公的資金であり、機関管理が必要との原則と精神を研究者に浸透させる。事務職員は専門的能力をもって公的資金の適正な執行を確保しつつ、効率的な研究遂行を目指した事務を担う立場にあるとの認識を機関内に浸透させる。研究者及び事務職員の行動規範を策定する。
 四、調査及び懲戒に関する規程の整備及び運用の透明化
 不正に係る調査の手続き等を明確に示した規程等を定める。不正に係る調査に関する規程等の運用は、公正であり、かつ透明性の高い仕組みを構築する。懲戒の種類及びその適用に必要な手続き等を明確に示した規程等を定める。

 《不正を発生させる要因の把握と不正防止計画の策定・実施》

 一、不正を発生させる要因の把握と不正防止計画の策定
 不正発生の要因がどこにどのような形であるのか、機関全体の状況を体系的に整理し評価する。不正発生の要因に対応する不正防止計画を策定する。
 二、不正防止計画の実施
 研究機関全体の観点から不正防止計画の推進を担当する者又は部署(以下、「防止計画推進部署」)を置く。最高管理責任者が率先して対応することを機関内外に表明し、自ら不正防止計画の進捗管理に努める。

 《研究費の適正な運営・管理活動》

 予算の執行状況を検証し、実態と合っているか確認する。予算執行が当初計画に比較して著しく遅れている場合は、研究計画の遂行に問題がないか確認し、あれば改善策を講じる。発注段階で支出財源の特定を行い、予算執行の状況を遅滞なく把握できるようにする。不正取引は研究者と業者の関係が緊密な状況で発生しがちなことにかんがみ、癒着防止の対策を講じる。発注・検収業務の当事者以外によるチェックが有効に機能するシステムを構築・運営する。納品検収及び非常勤雇用者の勤務状況確認等の研究費管理体制の整備について、機関の取り組み方針を明確に定める。不正取引に関与した業者への取引停止等の処分方針を機関として定める。研究者の出張計画の実行状況等を部局等の事務で把握できる体制とする。

 《情報の伝達を確保する体制の確立》

 競争的資金等の使用ルール等について、機関内外からの相談を受け付ける窓口を設置する。機関内外からの通報(告発)の窓口を設置する。不正に係る情報が、最高管理責任者に適切に伝わる体制を構築する。研究者及び事務職員が機関の定めている行動規範や競争的資金等のルールをどの程度理解しているか確認する。競争的資金等の不正への取り組みに関する機関の方針及び意思決定手続きを外部に公表する。

 《モニタリングの在り方》

 機関全体の視点からモニタリング及び監査制度を整備する。内部監査部門は、会計書類の形式的要件等の財務情報に対するチェックのほか、体制の不備の検証も行う。内部監査部門は「防止計画推進部署」との連携を強化し、不正発生要因に応じた内部監査を実施する。内部監査部門を最高管理責任者の直轄的な組織として位置付け、必要な権限を付与する。内部監査部門と監事及び会計監査人と連携強化する。

 《文科省による研究機関に対するモニタリング、指導及び是正措置の在り方》

 一、基本的な考え方
 有識者による検討の場を設け、ガイドラインの実施等のフォローアップをし、必要に応じて見直し等を行う。文科省等は、研究機関側の自発的な対応を促す形で指導等を行う。管理体制の改善に向けた指導や是正措置は、緊急の場合等を除き、研究活動の遂行に及ぼす影響を勘案した上で、段階的に実施する。
 二、具体的な進め方
 研究機関は、ガイドラインに基づく体制整備等の実施状況について、年に一回程度、書面による報告を文科省に提出する。文科省は、同報告書を基にガイドラインの「全機関に実施を要請する事項」の内容との整合性の確認を行う。なお、文科省は、確認に当たり必要に応じて資金配分機関と協議する。文科省等は、同報告書に基づく確認以外に、資金配分額の多い機関を中心にサンプリング等により対象を選定して現地調査を行い、体制整備等の実態把握を行う。文科省等は、同確認や同調査の結果、機関の体制整備等の状況に問題を認める場合には、当該機関に対して問題点を指摘し、事例を機関名を伏して各機関に通知し、注意を促す。問題を指摘された機関は、問題点を文科省等と協議の上、改善計画を作成し実施する。文科省等は、改善計画の不履行など、体制整備等の問題が解消されないと判断する場合、有識者による検討の結果を踏まえ、当該機関に必要に応じて次の是正措置を講じる。なお、是正措置の検討は、機関からの弁明の機会を設ける。
 1管理条件の付与:管理強化措置等を講じることを資金交付継続の条件として課す。
 2機関名の公表:体制整備等が不十分であることを公表する。
 3一部経費の制限:間接経費の削減等、交付する経費を一部減額する。
 4配分の停止:当該機関及び当該機関に所属する研究者に対する資金の配分を一定期間停止する。
 この是正措置は、改善の確認をもって解除する。

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