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グッド・デザイン・カリキュラム

各校、アセスメントにも注力 8事例から3事例を選定

 本紙企画「グッド・デザイン・カリキュラム」では、日本私立大学協会加盟大学に呼びかけ、応募があった大学から、日本高等教育開発協会(JAED、佐藤浩章会長)に依頼し、3事例を選定してもらった。JAEDの会員にこの3事例を訪問して報告してもらった。

 本企画では、各大学で大学の教育方針に基づいて設計されている「カリキュラム」について事例を募り、紙面で紹介することで、各大学の参考にしてもらうことを目的としている。
 同協会加盟大学から、聖徳大学、東京工科大学、朝日大学、北陸大学、崇城大学、熊本学園大学、九州産業大学などが応募、8事例が集まった。そのうち3事例についてJAED会員に取材、報告してもらった。
 佐藤会長の総評:
 「選定事例からわかることは、よくデザインされたカリキュラムは、学生の4年間の学びがストーリーとしてイメージできるということです。アイデンティティー形成期にいる学生が、一段ずつ階段を登っていくように学びが積み重ねられ、少しずつ視野が拡張していくように学びが広がっていく。カリキュラムマップやツリーなどはこうした学びのストーリーを可視化するためのツールであり、事例校はそれらをうまく活用しているように思われます」。

戦略に結びつけるアセスメント

 聖徳大学看護学部 可視化にこだわる

 千葉県松戸市にキャンパスを構える聖徳大学は、聖徳太子の「和」の精神に則った教育を実現すべく、1965年に聖徳大学短期大学として開学した。中でも看護学部は、2014年に設置された新しい学部であり、大学の教育理念である「確かな人間性と洞察力を備えた専門性の高い実践力を有する自立した女性の育成」を基盤として、「高い人間的資質と倫理性を備え、高度な医療と地域の看護に従事できる"凛"とした 専門職女性の育成」を目指し、現在約300人の学生を育てている。

人間性を高める全学教育

 看護学部のカリキュラムは、全学共通科目群(A類)と専門教育科目群(B群)の2本柱で構築されている。中でもA類には、人間性を高めるための独自科目が3つある。「聖徳教育Ⅰ」では、建学の精神である和とは何かを学び、文化・芸術に触れる機会が与えられる。「聖徳教育Ⅱ」では、2年次後期に全学生が6泊8日でハワイ大学に学術交流へ行き、視野を広げるとともに専門的な力も養っている。「小笠原流礼法基礎講座」では、時・所・場合を考えに入れた日常生活の基本としての礼儀作法や、音の慎み、風の慎みなど、患者さんや利用者さんへの配慮、施設スタッフへのマナーについて学ぶ。
 ディプロマポリシーで示されている「高い人間的資質と倫理性」や「凛とした専門職性」という難しいテーマに対し、建学の精神を学ぶための全学教育科目を結び付け、またそれを単なる教養として終わらせるのではなく、いかに看護という専門性に結び付けるかまで検討されている点は興味深い。

シミュレーション教育を中心とした専門教育

 看護学部の専門教育カリキュラムの最大の特徴は、シミュレーション教育にある。領域や学年に限定することなく、ほぼすべての演習で状況設定シミュレーションを取り入れ、4年間で体系的に知識・技術・態度を習得できるようにカリキュラムデザインされている。また、シミュレーション室、モニター室、高機能・中機能・低機能シミュレーターを完備するなど学習環境も整備されている。
 シミュレーション教育をここまで充実させるには、組織的な取り組みが不可欠になる。はじめに、学部新設時の2014年度から数人の教員が海外でシミュレーション研修を受け、他の教員に学内で伝達するFD活動が行われた。初年度から徐々に各科目でシミュレーション教育を取り入れ、2016年度にはシミュレーション教育に特化したワーキンググループ(以下WG)が立ち上がる。そこで、①各科目のシミュレーショントレーニングの内容・回数の把握と連携体制の構築、②シミュレーショントレーニングの体系化、③シミュレーション機器の管理・運用方法の統一化、④オープンキャンパスでの説明の分担計画及び実施といった、シミュレーション教育を組織的に取り入れていくための基盤がつくられる。翌年には常設されていたFDWGに統合され、シミュレーション教育の継続的な改善活動が行われるようになっていった。
 さらには、学部全体として領域を超えた組織的な教育を実現すべく、学部教員を「広域基盤領域(基礎看護学・地域看護学)」「臨床応用領域(成人看護学・老年看護学・精神看護学)」「育成領域(小児看護学・母性看護学)」でまとめて組織化した他、11~13のWGを設置し、専門が異なる約10人の教員が所属する(1人の教員が、2~4のWGに所属する)体制を整えた。その結果、それぞれの専門や領域の垣根を越えて教員間でコミュニケーションを取り合い、協力し合って学部全体としての専門教育の在り方を議論し、実現していくことができるようになっている。

可視化へのこだわり

 看護学部長が特に意識していることが、可視化へのこだわりである。とにかく目に見えることこそが重要と考え、各WGの議事録はすべて共有フォルダに保存し、学部教員であればいつでも誰でも見られる状態になっている。これにより自身のWGで他のWGと調整しなければならないことがあれば、すぐに他WGの議論を参照し、自分たちがやるべきことについて整理することができる。
 さらに、「各学科目群で実施される状況設定シミュレーション」の一覧が共有フォルダにアップされている。これにより科目間で教える内容に重複があることも可視化され、教員間で調整できるようになった。各授業は常に公開されており、自由に見学し、見て学ぶことができる。また、授業も専門が異なる教員が協力して実施するため、時として自分の専門以外のことを実演しなければならないこともある。そうすると、血圧測定の仕方1つとっても教員間の議論に発展することもあり、これもまたFDとして機能していくのである。
 加えて、教員が出しているレポート課題についてもすべて一覧化され共有されている。その内容は、レポートのテーマ、締め切り、枚数や文字数といった課題条件に至るまで網羅されている。教員はこれを把握し、どのタイミングでどのような内容のレポートを出すことが学生の学びにとって望ましいかを検討することができる。この制度を導入して以来、それまであった学生からのクレームが聞かれなくなったという。ちなみにこのフォーマットには、学生が課題を達成するのにかかった時間も記入する欄がある。課題を出すのは良いが、実際に課題達成にどれほど時間がかかるのかを教員自身が把握することで、適度な難度の課題について考えてもらいたいという意図があってのことである。

多様なアセスメントと学部戦略の構築

 可視化といえば、カリキュラム・アセスメントである。聖徳大学看護学部では、①各科目の授業アンケート結果のうち、自己学習時間・学習の成果や達成感・満足度、②各実習科目の評価項目のうち、コミュニケーション能力に関する自己評価、③卒業生アンケートのうち、学生時代の学習時間・目的の達成度等、④全教員による各論実習前の3年次の技術試験(合格しなければ実習に行けない)、⑤看護技術卒業時到達度チェック票の学生の活用度、⑥各専門科目のシミュレーション実施後の、シミュレーショントレーニングの目標に対する自己評価、⑦全教員による統合実習におけるシミュレーションと看護技術タスクトレーニングの成績、⑧就職率と就職先という8つの規準でカリキュラムを評価している。直接評価と間接評価をバランスよく取り入れていることがわかる他、見るべき評価項目を絞り込むことによってアセスメントをよりシンプルなものにしている。
 また、毎年各学年2名、計8人の学生に対する学生インタビューを行い、学生からカリキュラムに関する生の声を聴き、各会議で対応を検討するようにしている。なお、その場で回答できること、すべきことについては即時フィードバックし、インタビューの価値を学生自身が感じられるように努力しているという。量的データだけでなく質的データの収集まで行き届いている。
 この評価結果の活用は、各関連WGが行う。とりわけ自己点検評価WGは、学部の経営戦略を練るためのSWOT分析を毎年行い、5年間の中期計画並びに年間計画を立案しており、その議論にアセスメントの結果を用いることで学部全体の計画改善を促進することができている。このような学部全体をどのようにマネジメントすべきかという大きな観点からアセスメントを活用できている点は強みと言える。

まとめ

 これらの取り組みの結果、学生の就職率は100%となり、かつ難易度の高いセンターや病院、特別区の保健師に多くの卒業生を輩出している。学生の自己学習時間も科目平均1時間以上、卒業生の成長実感値も9割以上という高い成果を生み出している。実践的かつ体系的な教育を組織的に取り入れ、かつ不断の努力で改善し続けている結果であろう。これらを実現している学部長のリーダーシップや組織体制の工夫、そして個々の教員の苦労をいとわない組織と学生に対する貢献努力に敬意を払いたい。(京都橘大学 西野毅朗)

"アセスメント・マップ"で評価・検証

 北陸大学経済経営学部 着実な教育の実質化

 北陸大学は、石川県金沢市に位置する1975年に設立された私立大学で、薬学部・医療保健学部・経済経営学部・国際コミュニケーション学部の4学部からなる。建学の理念は「自然を愛し 生命を尊び 真理を究める人間の形成」、使命・目的は「健康社会の実現」である。
 経済経営学部マネジメント学科は、外国語学部と法学部の改組により2004年に設立された未来創造学部を2017年度に改組し、未来創造学部国際マネジメント学科から現学科名称変更したことにより成立した。学生数は1071人である。
 2017年度の名称変更の際には、教育理念を「組織や社会で活かされるマネジメント力で、誰もが安心して暮らせる社会の実現を目指す」としている。2019年度には人材養成の目的を新たに、「健康な地域社会、企業や組織及び自己の形成と発展に寄与するために、「マネジメント力」を持った人材を養成する。すなわち、社会・組織・自己のマネジメントに関連する知識と技能を身につけ、グローバルな視野と責任感をもって、自ら進んで他者と協働し課題を解決する力と、生涯学び成長し続けられる力を持つ人材を養成する」と定めている。3つのポリシーでは、学力の3要素の枠組みに沿って学生が身につけるべき資質・能力を示している。経済経営学部マネジメント学科のディプロマ・ポリシー(DP)は、「知識・技能」として、①「社会の一員として必要となる幅広い知識と技能」、②「マネジメント関連分野の専門知識と技能」、「思考力・判断力・表現力」として、③「課題や解決策を見いだし、論理的に表現する力」、④「経験から学び、成長する力」、「主体性・多様性・協働性」として、⑤「自ら進んで他者と協働し、課題を解決する力」、⑥「多様性や国際性を理解し、行動する力」の6つを設定している。これらの資質・能力を身につけた学生にマネジメント学の学士の学位が授与される。

2019年度からの「分野横断型カリキュラム」

 カリキュラムは、4つの科目群から構成される。視野を広げ、知識への好奇心を高めることを通じて、生涯にわたって自己を支え、健康社会の実現に寄与するための「一般教育科目群」、あらゆる仕事で必要となる力(汎用的技能、ジェネリックスキル)を育成するための「汎用的技能科目群」、社会科学を基盤として身につく知識と深い思考力、及び簿記会計や情報(IT)等の社会的ニーズの高いスキルを身につけるための「マネジメント科目」並びに実社会等での実践的な学修を行う「マネジメント実践科目」で構成される「専門教育科目群」、教職に関する科目及び資格に関する科目、並びにリメディアル科目で構成される「自由科目群」の4つである。学生は「専門教育科目群」と併せて「一般教育科目群」と「汎用的技能科目群」から科目を段階的に履修する。
 学際学部である本学部の専門教育では、コース制の導入等により、一つの専門分野に特化するのではなく、「マネジメント科目」の法律、経済、経営、会計、ITの5分野を横断的に履修する。学生は必修科目や履修指定科目を履修することで、主要5分野にまたがる「社会人になるための5教科」を2年次までに横断的に学ぶことになる。加えて、情報教育やデータサイエンス教育の重要性に鑑み、統計学は履修指定科目とされ、IT分野の専門科目はプログラミングや情報システムに関する内容を基礎から応用まで学ぶことができる。この分野横断型カリキュラムにおいて、複数分野についての専門性を深め、単一分野の学部では身につけられない学際的な専門知識・技能の修得が可能となる。
 「マネジメント科目」及び「キャリア科目」の1年次必修及び履修指定科目「基礎ゼミナール・キャリアデザインⅠ」、2年次「専門基礎ゼミナール・キャリアデザインⅡ」は、共通シラバスを用い、それぞれ同一担当者が2科目連続して担当する。「基礎ゼミナール」の授業時間は90分、続く「キャリアデザイン」は45分とし、残りの45分は担当教員全員が集まり進捗状況や課題の共有を行うために用いる。
 ゼミの授業計画は5ユニットに分割されている。各ユニットの教材作成を担当する教員たちがそれぞれ授業のプランを立て資料を作成する。その教材を全担当教員が共有して授業を進めている。複数クラスによって開講される他の科目も、授業設計及び教材の作成を担当教員が協働で行うことで授業の質的向上が図られている。

カリキュラム・マネジメントの特徴

 2019年度の新カリキュラム策定を担ったのは「カリキュラム改革ワーキンググループ」の教職員である(教員9人、職員2人)。WG長は山本啓一学部長、教員は専門教育科目群の6つのマネジメント科目から各1人、一般教育科目群の外国語科目、自由科目群の教職科目から各1人というように各科目代表から構成される。
 2017年度のWG設置後は、学部のコンセプトの再定義から始まり、カリキュラム改訂のタイミング設定、ロードマップ作成を行い、何を変えるべきか検討を進めていった。一般的に、分野横断型の学部は教員の専門性との関連で科目数は増加しがちである。旧カリキュラムの課題は、要卒科目200科目、全体で300科目と科目数が過多なことであった。そこで、20数人という専任教員数にもとづいて要卒科目数の上限を120科目と設定し、科目を精選した結果、要卒科目は120科目、全体の科目数も200科目に減らすことができた。導入後のカリキュラムの運用については、科目はすべてDPに紐づくというルールに基づき、カリキュラム・マップと科目概要・目的を学部として組織的に管理している。カリキュラム上の改善点が見つかった場合は、教授会で承認を得て修正を行う。
 大学のアセスメント・ポリシーでは、「卒業時・学年ごと・授業の各レベルを多面的に評価し、その結果をフィードバックすることで、学位プログラム全体の評価を行い、改善につなげる」ことと「1人ひとりの学生の成長を可視化して、学生による自己評価力を育成し、学生が主体的・自律的な人材へと成長する」ことの2つの目的を掲げている。そして、「学士課程プログラム評価」「年次プログラム評価」「学修(授業レベル)の評価」「その他外部評価」「入学者に対する評価」の5つを各指標に基づいて行う。評価、検証内容については、「北陸大学アセスメント・マップ(目標人材育成のための設計と評価制度)」にまとめている。例えば、「年次プログラム評価」では、GPAやアンケート、外部テストの結果を参照して総合的にカリキュラムを点検・評価する。加えて、学生は1年から4年までの各年次の目標に到達しているかを「DPルーブリック(学年別到達目標)」で学年末に確認している。「学修の評価」については、特に「厳格な成績評価」を重視し、複数クラス開講科目の成績評価を行う際には担当教員間で確認、調整を行う。また、学部教務委員会にIR担当者が置かれ、新カリキュラムの必修科目や履修指定科目については科目間のGP分布のばらつき等を確認している。年度末には教員全体で年度のカリキュラム評価を実施し報告書にまとめる。

ヒアリングを終えて

 本学部のカリキュラムで、学生は必修科目、指定科目を履修することで専門の主要5分野を横断的に履修し、統計学等を含め現代社会で活躍するために必要な知識や能力を身につけて行く。さらに、大学院進学希望者や学習意欲の高い学生を対象に、希望やニーズに基づいた開講が可能な科目「実践講座」も設けられ、科目削減を教員リソースのより適切な配分に繋げている。評価については、学生のDP到達度の自己評価等、多角的な観点をアセスメント・マップに定めて年次の評価に繋げる体制を構築している。本カリキュラムは、平成31年度(令和元年度)に導入され、年次の学習成果が表れるのはこれからである。学部長のリーダーシップにより、学部の方針が日頃から共有され教員間で教育を検討する機会が多く設けられていること、「履修の手引」にカリキュラム・ツリーやカリキュラム・マップ、DPルーブリックを入れ込み、学生が随時参照可能にしていること等、教育を実質化するための着実な取組が印象的であった。(関西福祉科学大学 久保田祐歌)

「実現と行動力」重視のプログラム設計

東京工科大学工学部 コーオプ教育

 東京工科大学は1986年に工学部の1学部3学科で開学し、現在、6学部約8千人の学生が、八王子キャンパス(工学部・コンピュータサイエンス学部・メディア学部・応用生物学部)と蒲田キャンパス(デザイン学部・医療保健学部)で学んでいる。大学の教育理念を「生活の質の向上と技術の発展に貢献する人材を育成する」こととし、実学主義を掲げている。工学部は開学時に創設されたが、2003年、時代の要請に応える形でバイオニクス学部とコンピュータサイエンス学部に改組された。
 しかし、この教育理念を近未来社会において体現し得る人材像を問い直し、その養成のために大学が何をするのか、また八王子市や周辺に展開する企業からの期待に応えるために何ができるかを追求し、2015年に新生の工学部が3学科構成(機械工学科・電気電子工学科・応用化学科)で再設置されることとなった。

工学部がめざす人材像

 工学部が志す教育は「持続可能な社会の実現に寄与する人材養成」、すなわち「環境」「産業」「人間」の調和のための「サスティナブル工学」を追求する人材の養成である。目指すべき人材として「専門科目に係る高度な知識や思考力を有しつつ、実学を通じた段取り力、課題解決力、コミュニケーション力等を身に付け、産業の場において発生する様々な課題、問題に積極的かつ能動的に取り組み、経済社会の持続可能性(サスティナビリティー)にも十分考慮しながら、その解決や新たな提案をすることのできる人材の養成を目指す」と掲げた。卒業生がこのような人材に育つためには、現場の状況・ものづくりの何たるかを知り、さらに現場に配慮した「新しいものづくり(サスティナブル工学)」のありようを自ら考え・行動できるようにならなければならない。カリキュラムの検討にあたり、2012年にアメリカ・カナダの6大学を訪問、調査を行った。その結果、導き出されたのが「コーオプ教育」「サスティナブル教育」「グローバルエンジニア教育」を学修の中心に据えるカリキュラムである。

カリキュラムの特長:コーオプ教育

 工学部では1~2年次に教養教育と専門基礎科目を、2~3年次に専門教育科目を学修する。実験・実習科目は1年前期(応用化学科は2年後期)以降の毎学期配され、3年後期の研究室配属時に履修する「創生課題」で基礎的な研究技術を学修し、4年次の「卒業課題」に向かう。工学部のカリキュラムの核となるのは、学部共通必修科目として2年後期(機械工学科)・3年前期(電気電子工学科・応用化学科)に行う「就業体験実習」を中心に設定される「コーオプ教育」科目群である。「コーオプ教育」とは大学と企業が連携する産学連携就業体験プログラムであり、学生が「実学と行動力」を身に付けられるように設計された。
 以下、学修の流れを簡潔に記す。【事前学修】1年次に「コーオプ企業論」「コーオプ演習Ⅰ」を学修し、経済社会や企業の基本知識とチームワーク、コミュニケーション能力の伸長を図る。そして、2年前期(機械工学科)・3年前期(電気電子工学科・応用化学科)の「コーオプ演習Ⅱ」において就業マナーを学び就業体験先とのマッチングを行う。【就業体験】2年後期(機械工学科)・3年前期(電気電子工学科・応用化学科)に「コーオプ実習」を履修し、企業において6~8週間の就業体験を行う。この間、アドバイザー教員(学科の教員が一人あたり10人程の学生を担当)は学生の実習先を訪問し、これが学生・教員・企業が互いを知り、信頼関係を醸成する機会となっている。
 なお、この期間のみ、当該学科学年の学暦はクォーター(8週間)で動き、工学部が重視する「コーオプ教育」「サスティナブル教育」「グローバルエンジニア教育」科目が連携し設定される。例えば、機械工学科を例とすると、「コーオプ実習」を行う2年後期には後期①(8週間)で「コーオプ実習」を履修し就業体験先企業で業務に携わり、後期②(8週間)で「工学英語A・B」(各々週2回開講)「サスティナブル工学実習」「地域連携課題」(以上学部必修)、「3D機械設計製作」「マイクロコントローラ実習」(以上学科必修)を履修する。
 とくに「地域連携課題」では、就業体験を基に企業と地域との関係をグループによるフィールドワーク調査を基本に解明し、地域社会での課題発見と解決を試みる。【事後学修】3年前期(機械工学科)・3年後期(電気電子工学科・応用化学科)の「コーオプ演習Ⅲ」において、就業体験で何を学び、どのような「気づき」があったのか振り返りを行う。学生は、学期途中で行う「成果発表会」ポスター発表の準備をとおし、体験を言語化しながら「気づき」を具体化していく。「成果発表会」では、連携企業や他大学の教職員に、就業体験先での自己の学びについて説明し、質疑応答しつつ学びを再認識していく(写真参照)。

コーオプ教育のマネジメント

 コーオプ教育のマネジメントは次の組織で実施される。【工学部:コーオプ運営連絡会】学部長、教務委員長、各学科代表委員、教務・就職関連職員、オブザーバー(就業体験を仲介する業者職員:「コーオプ演習Ⅱ・Ⅲ」担当)の構成で毎月開催。【学外:外部評価委員会】八王子市職員、八王子商工会議所、参加企業(約300社の中で毎年変えつつ受入学生の多い企業を優先)の構成で、先述の「成果発表会」の際に開催。運営連絡会・評価委員会での評価や提起された課題については工学部教務委員会において分析・解決策を検討し、改善が導かれる。なお、効果測定のためのアセスメントの手段として、PROGによる検証の他、実習学生と就業体験先企業に対するアンケートを行っている。

コーオプ教育の特長

 一般的に行われるインターンとは異なり、学生は就業体験中、企業と雇用契約を結び社員として「有償」で業務に携わる。「有償」であるが故に、学生は「お客様」ではいられず「本気」で働かねばならない。現場で常に「評価される」緊張感とともに、必要な「コミュニケーション」のありようや「産業の場において発生する様々な課題・問題」にかかる真正の学びを得ることができ、キャリアを自分ごととして考える機会も得られる。受入企業側では、現在の学生を知ることで自社のOJTを見直す、若手社員を関わらせることでその成長を促す、想定外の質問から再勉強する機会を得るなど、利点も多い。また、大学側では、企業が学生を「本気で怒ってくれる」ことから、教職員の指導では難しい「生活習慣」や「学修観」の変容が期待できるなど、その学修・教育・社会的な効果は大きい。
 筆者は、昨年12月の「成果発表会」に参加した。200人程の企業・他大学教職員を迎え、2学科180人のポスター発表が行われた会場は壮観であった。ある学生は「見通しを持った計画立案の必要性」に自己の学びを見出し、それは大学の授業の学修でも同じであると語ってくれた。またある学生は就業した「B to B企業」での経験を通し、未来のキャリアと「生きがい」について語ってくれた。話した全ての学生が、自信を持ち笑顔で、論理的かつ具体的に就業先のこと、そこでの体験、失敗、学びについて語っていた。若者の自己の成長に対する満足と、未来につながる自信を清々しく感じることができた。(神奈川工科大学 伊藤勝久)